院長ブログ

鉄剤の危険性

2018.6.11

ネットで情報発信している人のなかに、鉄剤の重要性を説いている人がいる。
なるほど、確かに、人間にとって鉄は必須ミネラルの一つで、鉄の不足は貧血をはじめ、様々な不調の原因になる。
特に若年女性は毎月出血することもあって、貧血傾向にあることが多く、鉄剤の処方が有効なことも多いだろう。
でも、鉄をすすめている某医師の著作を読んだところ、「血中フェリチン値は100を目安とすべきだ」と書いてある。
これはいくらなんでも高すぎる。
フェリチンは30もあれば充分だ。フェリチンが一桁台の人が鉄剤を開始し、30まで上昇すれば、鉄剤は中止すべき。
それ以上の鉄剤投与は活性酸素の発生源になって、かえって健康を損ねる、というのがThomas Levy先生の主張。
以下、同氏の”Hidden Epidemic”を参考にした記述です。

とってはいけないサプリメント、というものが三つある。それは、カルシウム、鉄、銅だ。なるほど、これらは生命にとって必須のミネラルだが、必要量と、毒性を発揮する過剰量との差が狭い。
カルシウムは骨粗鬆症の予防どころか、むしろ骨折の原因だということが疫学上はっきりしている。そもそも、体内のカルシウムの99%は骨に蓄えられていて、必要に応じて骨からカルシウムが供給される。わざわざカルシウムを飲むなど、ナンセンスである。カルシウムの摂取を増やし細胞内カルシウム濃度が高まると、細胞内の酸化ストレスとなり、慢性変性疾患を促進する。動脈内壁にカルシウムが沈着すれば、動脈硬化の原因ともなる。カルシウムの摂取量は、心筋梗塞の発症率のみならず、癌発症率の増大とも関連があるし、全体的死亡率とも正の相関関係がある。
骨粗鬆症に対しては、カルシウムではなくビタミンDをとるべきである。また、動脈硬化に対しては、カルシウムチャネルをブロックするマグネシウムをとるべきである。(ミネラルのなかで、唯一マグネシウムだけは、過剰症をそれほど気にする必要はない。むしろ、マグネシウムの摂取量と全体的死亡率との間には負の相関関係がある。)

鉄には、二価と三価、二通りの存在形態がある。二価の鉄イオンは過酸化物の存在下で、強力な酸化力を持つヒドロキシラジカルを生成する(フェントン反応)。このラジカルは、人類に知られた物質の中で最も酸化力の強いものの一つである。体内に鉄が多いほど、より多くのフェントン反応が起こる。つまり、細胞内の酸化ストレスは増大する。これは癌をはじめとした慢性疾患の原因となる。
ほぼすべての癌細胞は細胞内に鉄をため込んでいる。逆に、鉄キレートを用いて体内から鉄を除去すると、癌細胞は増殖を停止し、アポトーシス(細胞死)が起こる。
鉄は心筋梗塞の重大なリスク因子でもある。
鉄はヘモグロビンや各種酵素、たんぱく質の形成に必要であるが、血液検査で貧血ででもない限り、鉄の摂取は極力少なくすべきである。貧血でない人が鉄の摂取を続けると、酸化ストレスの増大を招き、癌、心疾患などの慢性変性疾患を発症する。血液検査に問題がなく、かつ、フェリチンが100 ng/cc以上の人は、献血、瀉血、遠赤外線サウナ、鉄キレート(たとえばイノシトール6リン酸)の摂取によって、フェリチンを下げるように努めるべきである。少なくとも50 ng/cc以下に抑えるのが望ましい。
鉄は病原微生物の増殖に必須である。鉄の摂取量が多いほど、腸内の病原微生物の量も多い。この病原微生物のなかには、ヘリコバクターピロリも含まれている。
アメリカでは事実上すべての加工食品に鉄が添加されているため、数百万人ものアメリカ人が鉄の過剰摂取に苦しんでいる。鉄に対して、体は特異的な排出メカニズムがないため、過剰摂取された鉄は極めて排出されにくいのである。
アメリカで食品への鉄の添加が始まったのは1941年からである。アメリカのセリアック病患者は当時よりも400%増加したが、このグルテン過敏症の背景には、鉄により引き起こされた腸の炎症がある。この炎症がリーキーガット症候群、すなわちグルテンが未消化のまま腸壁を通過してしまい、抗原抗体反応および自己免疫疾患を起こす原因となっているのである。
今やアメリカでは、赤ちゃんの離乳食にさえ、鉄が添加されている。
母乳栄養から離乳食に切り替えた時から、こうした鉄の摂取により、セリアック病の下準備がなされるのである。
また、鉄剤に含まれる鉄は、鉄鋼業でグラインドの際に生じた鉄である。本来なら廃棄されていたところ、食品への鉄の添加や、鉄サプリメントといった市場が生まれたために、そちらに用いられているのである。このあたりの事情は、フッ素が虫歯に有効というデータのために、本来廃棄されるべきフッ素が水道水に添加されているのと同様である。
鉄剤を飲み始めた人に胃腸の不快感を訴える人が多いのは偶然ではない。鉄による病原微生物の増大、鉄によるフリーラジカル生成およびそれに起因するリーキーガット症候群。これらは皆、誤ったものを摂取したことによる、体の自然な拒否反応である。

フェリチンは100まで上げるべし、と言っている先生、実名をあげようかあげまいか迷ったけど、上記のLevyの翻訳をしながら、やっぱりはっきり言うべきだと思ったので、言うと、藤川徳美という先生です。
『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』 (光文社新書)という本にある記述。
総じてすばらしい本だと思う。
若年女性の精神疾患の背景に貧血があることが多い、という指摘は、もっと多くの医者が知るべきだと思う。
でも、内容がいくらなんでも極端すぎる。
この本の内容を素直に信じてしまうと、別に鉄をとる必要のない人まで、「健康維持のために鉄をとろうかしら」なんて思ってしまうと思う。
アマゾンのレビューも絶賛の声が多い。
なるほど、効く人には効くだろう。でも万人の実践する健康法、というわけでは決してない。

僕は藤川先生をフェイスブックでもフォローしていて、先生がオーソモレキュラー栄養療法を実践されていて、すばらしい成果を上げていることを知っている。
だから、先生には今後とももっと活躍してほしいと思っている。それで、ホッファーやソールの名前がもっと広まればいい、と期待している。
藤川先生はフォロワー数も多く、投稿の影響力も強いインフルエンサーだ。
でもだからこそ、間違ったことは言ってほしくない。

たとえば、先生はNOWのB50をオススメしてるけど、あれは葉酸がfolic acidだから発ガン性があるし、ビタミンB12欠乏の原因になる。
さらに、ビタミンB6がピリドキシンであって、P5Pじゃないのも残念。
とっているサプリがいまいちだからギックリ腰なんてしてしまうんじゃないかと、心配になってしまう。
ただ、先生がこういう間違いを犯してしまうのは仕方がないことも理解できる。
僕はHofferの”Orthomolecular Medicine For Everyone”を翻訳したからよくわかるんだけど、ホッファー自身、葉酸は天然よりも合成のほうが吸収がよくて体にいい、なんて言ってるぐらいだから。
でも、時代は常に変わり、知識も変わっていく。
ホッファーはこの本を出して翌年には亡くなったけど、栄養療法は進歩していく。
僕らはそうした知識の変化に対して常に適応していかないといけない。

たとえば治療方針を転換した医者に対して、患者が当惑して、こっそり裏側で、
「あの先生、前は鉄剤を飲め飲めってしつこく言ってたくせに、舌の根も乾かぬうちに、鉄剤は飲んじゃダメだ、なんて、宗旨替えも甚だしい。なんて定見のない先生だろう」みたいな反応をすることはあり得ることで、そういう矛盾を指摘されたくないがために、同じ治療法にこだわり続ける、という心理はわかる。
でも医者はそれじゃダメなんだ。
患者に陰口叩かれて、コロコロ変わると言われようが、医者は常に患者のベストを考えないといけない。
フェリチン100は患者にとってのベストか。
藤川先生には再考願いたいところなんだけどなぁ。