ホッファーはナイアシンの大量投与療法によって、6000人以上の統合失調症患者を社会復帰させた。著した論文の数は500以上。
2009年に91歳で亡くなる直前まで、臨床現場で診療にたずさわっていた。
十代で統合失調症を発症した少年が、親に連れられてホッファーの診療所を訪れた。ナイアシンによる治療を受けた。他のどんな薬を飲んでも治らなかった少年は、見事に回復し、退院していった。
数十年の月日が流れた。
少年は長じて医者になり、出世して、APA(アメリカ精神医学会)の幹部になった。
APAは3万5千人以上の会員数を擁する世界最大の精神医学会で、様々な医学雑誌を刊行し、精神科の診断基準(DSM)の作成にもたずさわるなど、世界中の精神科医の司令塔、といった存在である。組織としての資金力も豊富で(なにしろ製薬会社から流れ込む資金が莫大なので)、政治的な影響力も強い。
当然、APAとしては、栄養療法の存在など断じて許容できない。
テレビなどのマスコミを通じて栄養療法の情報が出ないよう徹底して圧力をかける。テレビ業界にとって一大スポンサーだから、そういうことが可能なんだ。政治家にもパイプが太く、精神科学会にとって有利な政策が通るよう、ロビー活動も積極的に行う。
患者にとって真に有益な治療が表に出ず、副作用の多い製薬会社の薬が臨床現場で延々使われている背景には、こうした経済的、政治的な思惑がある。
医療というのは、そもそも患者のほうを向いていない、ということは、知っておくべきだろう。
統合失調症になり、ホッファーの治療を受け、人生を救われたかつての少年は、ホッファーと敵対する組織のトップとして、一体どんな気持ちで働いていたのだろう、と思う。
自分を救ってくれた恩人に銃を向ける格好なわけで、この医師は心の中に矛盾を感じなかっただろうか。
ナイアシンがいかにすばらしい効果があるか、当然この先生は知っている。そして、自分の団体が売り出している薬がどれほど副作用の多いものかも知っている。すべてこの医師が自分の体で経験してきたことだから。
巨大な組織に所属し、莫大な資金力、圧倒的な政治力を運用する側になれば、人間としての良心なんて、どこかに吹っ飛んでしまうのかもしれない。
ナイアシンが統合失調症どれほど著効するか、知っている医者は当然いる。APAの幹部さえ、知っている。でも、決してスタンダードな治療にならない。
要するに、政治なんだよね。
こういうの、ホンマにイヤやわ。