タマネギにカビが生えたとして、そのカビの生え方を、よく見て欲しい。
オレンジ色の皮の部分は無傷で、白い可食部分にカビが生えている。
もちろん、タマネギの皮にはカビが生えない、というわけではない。真菌の繁殖条件(湿度、温度、pHなど)を整えてやれば、皮もきっちり分解する。「形あるもの(有機物)は、確実に葬り去り、次なる命への肥やしとする」これが真菌の仕事である。カビこそ真の、必殺仕事人、である。
真菌は、決して手抜きをしない。「この世向きでない有機物」があれば、それがどこにあろうとも(それがたとえ、生きている人間の体であろうとも)、土に還そうと試みる。
僕らはこの状態を、僕らの都合上、「病気」と呼んでいる。仕事熱心な真菌としては、実に心外な表現である。彼らは自分の仕事をしているに過ぎない。
しかし、なぜだろう?
なぜ、タマネギの皮はカビが生えにくいのだろうか?
誰に頼まれずとも黙々と仕事をこなすカビである。そのカビさえも、タマネギの皮の分解がやや苦手だというのは、よほどのことである。
これは皮に含まれるケルセチンの作用による。
ケルセチンには抗酸化作用がある。
カビは酸性環境下(アシドーシス)で働きが高まるから、酸化を抑制する成分に対しては、分解作業が難渋する。
ところでそもそも、生理学的な意味でいうところの酸化とは、「活性酸素の産生が抗酸化防御能を上回った状態」である。火消しの量よりも可燃物のほうが多くあるということで、酸化と炎症はおおむね同義語だと考えてよい。
慢性的な炎症が癌や動脈硬化のもととなり、動脈硬化は万病(たとえば高血圧)のもとになる。
さて、ここでケルセチンを投与するとどうなるか?火消しを投入するのだから、効果はお察しの通りである。
『食品中のポリフェノールが、アポリポタンパクEノックアウトマウスの動脈硬化に対して、炎症および血管内皮細胞の機能不全を緩和することにより、改善効果を示した』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20093625
要するに、抗酸化作用とは抗炎症作用であり、さらに網羅的に述べるなら、抗動脈硬化作用、抗脳疾患作用、降圧作用、抗腫瘍作用、血管弛緩作用などである。
ケルセチンは、分子としては、こういう形をしている。
ところで、ルチンやヘスペリジンという言葉を聞いたことがあるだろうか。
ルチンはソバに、ヘスペリジンは柑橘類の皮に含まれている成分として有名だ。
実はケルセチン、ルチン、ヘスペリジンは、いずれもビタミン様物質(厳密にはビタミンではないが、ビタミンのような働きをする物質)である。
ルチンもヘスペリジンも、分子的には、ケルセチンに配糖体がくっついた形をしている。
具体的には以下のようである。
ルチン↓
ヘスペリジン↓
ケルセチンに、オリオン座みたいな鼓形のやつが2つくっついて、ルチンやヘスペリジンができる。くっつく場所が違うだけだから、働きはおおむね同じ(根っこは抗酸化作用)だと思ってよろしい。(もちろん、サリドマイド(光学異性体)の例を考えれば、「形が似てれば、生理的作用もだいたい同じ」とは必ずしも言えないが。)
さらに、ケルセチンの摂取によって、血中グルタチオン濃度が上がったという報告もある。
『ケルセチンはヒト動脈血管内皮細胞におけるグルタチオン濃度と酸化還元反応に影響するが、これはケルセチン-グルタチオン結合体の細胞内輸送とグルタミン酸-システインリガーゼのアップレギュレーションによるものである』(長いタイトルやのぉ)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5011167/
グルタチオンというのは、要するに、解毒酵素である。これが体内で誘導されるということは、まず、吉兆である。
「なるほど、カビ毒にはケルセチン、ルチン、ヘスペリジンのサプリだな!」と飛びつかないこと。
もちろん、科学の導き出した興味深い知見であるから、それを実生活に生かそうとすることは、基本的に賢明な姿勢である。ただ同時に、どのようにしてその成分を摂るのか、という視点も持ちたい。
ビタミンCやナイアシン、有機ゲルマニウムを高用量で摂りたいときには、さすがに食品では無理があるから、上手にサプリを利用すればいい。
しかし、基本は食品からの摂取である。
玉ねぎを料理するとき、食べるのは実の部分ばかりで、皮は捨てているだろう。ミカンを食べるときも、皮は捨てるだろう。今回のブログは、要するに「ゴミが薬だった」という話である。
玉ねぎの皮や、乾燥させたミカンの皮を、ブレンダーで砕く。それを瓶に保存し、適量飲む(1日小さじ3杯とか)。成分を抽出・精製したサプリには含まれていない様々なバイオフラボノイドが生きていて、サプリ以上に有効だろう。
そんな手間は省きたい、という向きには、玉ねぎの皮の粉末が売っている。興味のある人は検索してみるといい。
カビ毒に効く栄養素の話は、次回にも続きます。
参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph著)