今日、近くを通りかかった薬局の風景。
この薬局、数日前から、板藍根(ばんらんこん)という生薬をえらくプッシュしている。
医薬品ではないから効用は標榜できないものの、新型ウイルス対策として、暗にオススメしている雰囲気だ(「新型コロナウイルスに効く!」と言いたいが、そう言ってしまうと法律違反 ゚Д゚)。
僕はこの生薬のことを全然知らなかった。一般的な知名度もそれほど高くはないだろう(実際、「ばんらんこん」と入力して漢字変換を押すと「晩乱婚」と出てきた。何か急にエロいワードになった^^;)
この板藍根、ウイルスに効くとして、中国では有名な生薬である。
1988年に肝炎が流行したときや、2002年にSARSが流行したときには、この板藍根が薬局の店頭から一瞬にして消えたという。つまり、肝炎ウイルスに対してであれインフルエンザウイルスに対してであれ、とにかく「ウイルス」の働きを抑える生薬として中国では認識されているようだ。
分類学的には、アブラナ科のホソバタイセイ(Isatis indigotica)である。アブラナ科というだけあって、実際写真を見てみると、素人目にはアブラナそのもののような印象を受ける。
学名がindigoticaというだけあって、かつてはこの植物の根から抽出される青い成分(インディゴ)が藍染やジーパンの染料として用いられていた。考えてみれば確かに、板藍根というその名前自体に、かつて染料として使われていた名残がある。
さて、気になるのは、板藍根がウイルスに効くという噂に、本当に科学的根拠があるのか、ということである。
そこで論文を調べてみたところ、確かに、複数ヒットした。たとえばこのような論文。
『板藍根由来多糖類のインフルエンザウイルス感染に対するマウス防御力への効果』
https://www.semanticscholar.org/paper/Effects-of-Banlangen-polysaccharide-on-mice-to-Jun/fcd73cd9067ee98d5a91c5c5ac0d929b4589be0f
「インフルエンザウイルスに感染させたマウスに対して、実薬群ではマウスの腹腔内に板藍根由来エキスを注入し、一方対照群のマウスには腹腔内に生理食塩水を注入した。
両群での、生存率、血漿中のIgG濃度、脾臓のインターフェロンγ濃度を測定した。その結果、板藍根エキス投与群では、死亡率が有意に低下し、生存期間も有意に延長した」
うむ、あくまでネズミを使った研究ながら、一応の説得力はある。
他にはこんな研究。
「板藍根抽出物のインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0254627216300516
板藍根がインフルエンザに効くのはわかっているから、それではなぜ効くのか、その機序はどうなっているのか、を調べたのがこの論文。
板藍根から抽出される成分クレマスタニンB(CB)、エピゴイトリニン、フェニルプロパノイド類(PEP)、その他アルカロイド、有機酸があるが、何がどのように効いているのか。
作用機序としては、治療作用、予防作用、ウイルス接着抑制作用、殺ウイルス作用、の4つの可能性を想定した。
ややこしい話なので、途中を省略して結論部分に飛ぶと、これらの成分には、ウイルスの増殖抑制作用とウイルスの接着阻害作用によって抗ウイルス活性を発揮していることがわかった。
以前のブログで、「葛根湯は予防に著効するが、一回ウイルスに罹患してしまうと、やや効果が落ちる」といったことに言及したと思う。
漢方のプロに言わせると、板藍根は予防はもちろん、罹患したあとにもしっかり効いてくれるところが、この生薬の強みだという。
板藍根は上記の写真のように、普通に漢方薬局やネットで買える。お茶として普通に煮出して飲めばいい。あるいは飴として売っているから、のど飴感覚でなめるのもいいだろう。
世間ではマスクの品薄はもちろん、トイレットペーパーまで売り切れが続出している。
すでに多くの人が指摘しているように、ウイルス性疾患に対してマスクの予防効果はない。気道の保湿効果や咳エチケットとしての意味合いでマスクをするのなら、一概に否定しないけどね。
真剣にウイルスの予防を意識するのなら、多少なりエビデンスのあることを実行しよう。
多くの人が変にマスクを買いだめするものだから、当院も含めて、一般の医療機関はマスクが買えなくて困ってるんだよね^^;