院長ブログ

コロナウイルス対策6

2020.2.26

「風邪の引き始めには葛根湯」というのは、テレビCMなんかで宣伝されたことがあるせいか、一般の人でも何となく聞いたことがある。
しかし、風邪とはそもそも、ウイルス感染症だということはご存知ですか?
その原因ウイルスとして一番多いのは、ライノウイルスだが、その他には、コロナウイルス(今問題になっているのは”新型”コロナウイルス)、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、エンテロウイルスが挙げられる。

さて、「風邪に葛根湯が効く」ということは、葛根湯がウイルス感染症全般に効く可能性はないだろうか?
今、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されている。しかし葛根湯がウイルス感染症全般に効くとすれば、今回の新型コロナウイルスにも有効かもしれない。
葛根湯は処方薬としては安価である。ちなみに、シナール(ビタミンC)も安い。
予防は治療に勝るものである。かかりつけの先生にお願いして、葛根湯(朝1包 食前)、シナール(毎食後)を出してもらって新型コロナウイルスの罹患率が減少するのであれば、やっておいて損はない。
何も「ずっと飲み続けないといけない」わけではない。寒さの厳しいここ1、2か月の間だけでいい。
4月5月にもなれば暖かくなって、ウイルス感染症の罹患率は全般的に低下する。新型コロナウイルスもこの傾向にならうと信じたい。

ところで、葛根湯が風邪に効くという、その根拠は?
僕ら医者も「なんとなく聞いたことがあるな」程度で、その根拠となる元論文に当たったことがある人はそれほど多くはないと思う。
そこでエビデンスについて、調べてみたところ、いくつか論文が見つかった。たとえばこんなの。

『葛根湯(GGT)はヒト呼吸器細胞内のRSウイルスに対して抗ウイルス活性がある』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22120014
長いので【目的】も【方法】も省略して【結果】だけ書くと、
「GGTは用量依存性にHRSV(RSウイルス)が産生するプラーク形成を抑制した。GGTはウイルス感染の前に投与するとより効果的だった。
GGTはヘパリン(抗凝固分子)の有無にかかわらず、用量依存的にウイルスの接着を抑制した。また、GGTはHRSVの侵入を時間依存性および用量依存性に抑制した。GGTは粘膜細胞を刺激してIFNβの分泌を促進し、ウイルス感染を抑制した」

『葛根煎じ液(GGD)のインフルエンザウイルスA型感染に対する作用機序の考察』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1875536419300792
「ウイルス活性を抑えることはわかっているが、その機序は不明だった。今回の研究でわかったことは、まず、GGDはin vitro(試験管内)で中程度の抗インフルエンザウイルス活性を持つこと。
さらに、GGDはウイルス感染が成立する前に投与したほうが効果が高いことがわかった。これは、GGDが細胞内に侵入したウイルスに対して効くというより、ウイルスの細胞への接着や複製段階に作用しているということである。さらに、in vivo(生体内)の実験で、インフルエンザH1N1型に感染させたマウスにおいて、GGDを投与すると肺組織のウイルス力価が有意に低下し、かつ、マウスの生存率、肺指数(lung index)、肺組織病理所見が改善した。 GGDの投与によって、TNFαの発現が低下し、Th1/Th2の免疫バランスが改善して過剰な免疫応答が抑制された。さらに、GGD投与によって、ウイルス感染マウスのtoll様受容体7伝達経路の発現が減少した。これらの機序によって、GGDは抗ウイルス作用を持ち、肺の炎症を軽減する免疫調整を行っているものと考えられる」

『升麻葛根湯はヒト表皮線維芽細胞内のエンテロウイルス71型を抑制した』
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378874108003061
タイトルの通り。詳細は省略。

他にもいくつか論文があったけど、こんなところで充分だろう。
そう、葛根湯がインフルエンザウイルスを始め複数のウイルスに効果があることは間違いない。
「風邪のひきはじめに飲むのが肝心」というように、感染が成立したあとでも決して無効ではないが、事前投与のほうが有効性が高い、ということにも実験的な根拠があるということがわかった。

さて、漢方薬というのは複数の生薬の組み合わせから成り立っているものだけど、葛根湯がどのような生薬から成り立っているか、みなさんご存知か?
葛根湯、というぐらいだから、葛根(クズの根っこ。トロミつけに使ったりする)が入っているのは当然予想がつくが、その他には、以下のものが入っている。
麻黄・・・エフェドリンという交感神経を高める成分が含まれている。高濃度に精製したエフェドリンは、覚醒剤的な作用をするヤバいクスリ。
桂皮・・・シナモンのこと。おなじみ、八つ橋の風味。
芍薬・・・立てば芍薬座れば牡丹、とは美しい女性の立ち居振る舞いを指す。生薬には芍薬の根っこが用いられる。
生姜・・・生薬的には「ショウキョウ」と読むが、要するにショウガのこと。
大棗・・・ナツメのこと。僕の昔住んでた長野では、あちこちに自生していた。ほのかに甘い実。
甘草・・・むしろこれが入ってない漢方薬のほうが少ないくらいの、超定番の生薬。

どうですか。これが葛根湯の内訳です。
葛根(クズ)、桂皮(シナモン)、生姜(ショウガ)はスーパーで普通に買えるし、その他のもネットで買える。
つまり、葛根湯の生薬は自分でコンプリートできる、ということです^^
「ツムラやクラシエの精製した剤型の漢方薬はどうもちょっとなぁ」という人は、生薬を取り寄せて自分で葛根湯を作るのもいいだろう。