院長ブログ

真菌、コレステロール、癌4

2020.2.8

カビ(真菌)と癌の関係性を示すデータは多い。ざっと列挙すると、
・パツリン(ペニシリウム属、アスペルギルス属の産生するマイコトキシン(カビ毒))をマウスに投与したところ、乳房腺腫が生じた(Dickens and Jones 1965, 1967)。
・腐敗した米から抽出したカビ毒をマウスに投与すると乳癌が生じた(Saito 1971、Corrado 1971)。ちなみに遠藤先生が最初に作ったスタチンも米にわいたカビが原材料である。
・T-2トキシン(カビの一種であるフザリウムが産生するマイコトキシン)をラットに投与すると乳癌が生じた(Schoental 1979)。
・メスのマウスにオクラトキシン(アオカビ属、コウジカビ属の産生するカビ毒)を経口投与すると、半数以上に乳房線維腺腫が生じた(Boorman 1988)。乳房線維腺腫はヒトにおいて乳癌のリスクを増加させることがわかっている(Dupont 1994)。

なるほど、癌は近年増加中で、今や2人に一人が癌に罹患し、3人に一人が癌で死亡する、とも言われている。
しかし、たとえば江戸時代とか明治時代に癌の患者がいなかったかというと、そうではない。
たとえば華岡青洲が1804年世界で初めて全身麻酔下の外科手術を行ったが、これは乳癌に対して行ったものである。
これは僕の推測だけど、食品添加物も原子力発電所(人為的放射線)もない時代の癌患者というのは、ほとんどがカビ毒に起因する発癌だったんじゃないかな。

カビのはえたナッツをエサとして与えられていた七面鳥が肝臓癌にかかり大量死した事件については、以前のブログで書いた。集団大量死の原因が呼吸器感染症などではなく、意外にも癌であったことが、世間にショックを与えた。
カビ毒が原因の集団癌発生は、鳥だけに起こるものではないし、過去のものでもない。
2004年にスウェーデンの高校で教員20人が癌を発症した。2006年アメリカのウィスコンシン州の小学校で、102人の職員のうち28人が、さらに生徒2人が、癌の診断を受けた。いずれのケースも、カビが繁殖したままで使用されたエアコンのフィルターが原因であったと見られる。
これらの事件をきっかけに、シックビルディング症候群(sick building syndrome)という疾患概念が提出され、カビと癌の関係が一時注目された。
しかし今ではほとんど忘れられているようだ。肺癌の原因として、タバコやアスペスト、PM2.5などの大気汚染物質が挙げられることがあっても、カビ毒はほとんど見過ごされている。

カビ毒(スタチンも含め)が毒性を発揮するメカニズムは複数あるが、ひとつには、免疫抑制である。
シクロスポリンという薬がある。
これはもともとは、抗生剤である。真菌と細菌、と聞けば「どちらも同じようなバイ菌だろう」と思われるかもしれないが、全然別物だ。細菌は原核生物だが、真菌は真核生物である。
つまり、細菌はその内部に染色体DNAがむき出しで存在するが、真菌はその内部に核、ミトコンドリア、小胞体などの細胞内小器官を備えている。真菌は細菌よりも、格段に進歩した生物だ。
シクロスポリンは、この高等な真菌の武器である。シクロスポリンを注入して細菌を殺し、エサとして頂くわけだ。
フレミングがアオカビのマイコトキシンから作った抗生剤(ペニシリン)と、基本的には同じようなものである。
ただ若干の分子構造や作用の違いから、免疫抑制剤として使われたり、コレステロール降下薬(スタチン)として使われたりする。ただ根本は同じで、「カビ毒による細胞機能のかく乱」である。

これはすごい話だと思いませんか?
抗生剤、免疫抑制剤、コレステロール降下薬。
どれもまったく別の薬だと思いきや、どれも要するに、カビ毒だという。
カビは、まったく、製薬会社にとってカビ様(神様)だね^^
このカビ毒の製品化でどれほど莫大な利益をあげ、かつ、どれほど多くの人命を奪ったことか。

さて、シクロスポリンの話である。事実上、抗生剤ではあるが、医学部では免疫抑制剤だと教わる。
たとえば臓器移植を受けた患者の免疫系を抑制するために、シクロスポリンが長期間投与されたりする。
ただ、もともとの素性は結局カビ毒である。長期間こんな薬を服用して、体に異常が起こらないはずがない。
そもそもこの薬は、免疫を抑制しているというか、カビ毒で細胞機能が破綻して免疫が適切に機能しなくなっている、というだけのことなんだ。
臓器移植後にシクロスポリン投与を受けた患者88人中87人が癌を発症したという報告がある(First and Penn 1986)。具体的には、ほとんどの癌が、乳癌、卵巣癌、精巣癌だった。
なぜだと思いますか?
乳房、卵巣、精巣、これらはいずれも、ホルモンの産生器官だ。つまり、コレステロール代謝が活発だからカビ毒の影響を受けやすく、だからこそ、癌化のリスクも高いんだな。
シクロスポリンのせいで癌になったのではないか、という報告は他にも、Vogt(1990)、Escribano-Patino(1995)など数多い。
特にHarrison(1993)は乳癌患者の標本中にアフラトキシンのDNAを見出した。

ついでに、悲しいお知らせをしてもいいですか?
フランスの研究(Le 1986)によると、乳癌の発生率と青カビチーズの消費量には正の相関がある。「青カビチーズを食べれば食べるほど、乳癌のリスクが増えますよ」ということだ。
チーズ好きにはショッキングな話だね( ゚Д゚)でもこういう疫学研究は上手に活用することが大事で、結論だけ見て「今後チーズは一切食べません!」と極端に振り切るのはよくないよ^^;
人類は大昔から発酵という現象を利用してきた。デメリットだけではなくて、きっとメリットもあると思うんだよね。
たとえば日本の食文化と切っても切り離せない酒と醤油。これ、どちらもAspergillus flavusという、アフラトキシンを産生するカビによって作られていますから^^;でも「明日から酒と醤油を使うのはやめよう」とはならないよね。
学問が提供するのはあくまで”一面の事実”に過ぎないことが多いもので、あまり右往左往するもんじゃないよ。
「納豆がいい!」となれば納豆ばかり食べたり、「肉がいい!」となれば肉ばかり食べたり、世間には情報にブンブン振り回される人がいるものだ。
「一番大事なのは、バランス」っていうセンスが、ごっそり抜け落ちてるよねぇ^^;

参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(Jamaes Yoseph)