院長ブログ

アシドーシスと病気

2020.1.23

前回に引き続き、癌は重曹で治癒できる、という研究を挙げる。

『癌細胞は重曹(重炭酸ナトリウム)によって打ち負かすことができるのか』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5954837/
「巨大な肝細胞肉腫(HCC)に対する肝動脈閉塞療法(TACE)の改良版のやり方について、Chao et al.が報告している。これによると、抗癌剤に5%の重曹(重炭酸ナトリウム)を加えて腫瘍に注入するのである。
小規模な無作為比較試験では、重曹を加えたTACEによる客観的反応率(ORR)は100%だった。TACE単独投与群のORRは63.6%であり、有意な改善率が示された (Chao et al., 2016)。
著者らは重曹によって腫瘍の乳酸アシドーシスが是正されることを期待していることから、この方法は腫瘍内乳酸アシドーシス標的TACE(TILA-TACE)と命名された。
著者らは以前、in vitro(試験管内)の研究で、乳酸アシドーシスがあると癌細胞はグルコース飢餓の状態になっても能率的に生存し続けることを示した(Wu et al.,2012)
乳酸アシドーシスという現象は、酸性度の上昇(アシドーシス)と乳酸の蓄積(ラクトーシス。乳酸血症)が特徴である。腫瘍に直接重曹を注入するTILA-TACE法によって、腫瘍内部の微小環境で乳酸濃度は変化させず、pHを上げてアシドーシスを改善することが期待できる。
この方法のキモは、乳酸アシドーシスの改善というよりは、アシドーシスの改善である。in vitroの研究では、ラクトーシスではなく、アシドーシスこそが、グルコース欠乏下の癌細胞の生存期間を延伸させることが示された(Wu et al., 2012)。
腫瘍細胞の生存にとってアシドーシスのほうがより重要であることを考えれば、重曹を腫瘍に注入して腫瘍内のpHを上げるだけで、腫瘍のアポトーシスが劇的に増えたことは、特別驚くほどのことでもないだろう」

上記の研究は中国のもの。
重曹を抗癌剤と併用することで有効性が高まった、という研究だけど、重曹の単独注入でも十分効果が出たに違いない。しかしそういう研究デザインでやってしまうと、製薬会社から研究資金提供が受けられない、というジレンマがある。「薬いらんやん」という研究を、製薬会社はスポンサーしない。
しかし重曹の有効性を確認しようという姿勢だけでも立派というべきで、日本ではこんな研究は望むべくもないだろう。

癌と診断された人は皆、インターネットでいろいろと調べるものである。そして「癌に甘いものは大敵」ということを知り、砂糖菓子はもちろん、厳しい糖質制限をしたりする。ここまではいいとして、でもそれだけでは充分ではない、ということを上記研究は示している。アシドーシスの条件下では、グルコースの供給を断っても癌細胞は死なないわけだから。

甘いものをやめることに加えて必要なのは、体をアルカリに保つ生活習慣を意識することだ。
体液をアルカリにすることの重要性は多くの医療者が言っている。
以前ブログで紹介したDr.Sebiもそうだし、ゲルソン療法で有名なマックス・ゲルソン医師も言っている。”alkaline diet cancer”で検索すると、多くの本がヒットする。癌の背景に体液の酸性化があって、癌の改善にはアルカリが重要だというのは、欧米では相当広く認識されているようだ。

実はアルカリが大事なのは、癌の治療に対してだけではない。Dr.Sebiは「すべての疾患は、体液の酸性化から起こる」とさえ言っている。
これは極論だとしても、一般の医学でも重曹の有効性を認めている疾患はけっこう多い。
メニエール病にメイロン(炭酸水素ナトリウム)を点滴するのは耳鼻科医には当たり前の知識だし、潰瘍や胸焼けに重曹が効く機序は小学生にも理解できる(胃酸が中和されるわけだから)。
しかし、たとえば自己免疫疾患にも重曹が効く、とまでいうと、多くの医者は眉をそびやかすだろう。しかしこんな研究がある。
『重曹の飲用により、安く安全に自己免疫疾患を治すことができる可能性』
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/04/180425093745.htm
「関節リウマチなどの自己免疫疾患による破壊的な炎症が、毎日重曹を飲むだけで軽快する可能性がある。本研究は、安価なOTC医薬品の制酸薬である重曹が、脾臓に作用することで抗炎症環境を作り出し、その結果、炎症性疾患に効果を発揮することを示した最初のエビデンスである」

「酸性になると病気になるのだから、重曹を摂取してアルカリに戻してやればいい」というのは議論としては乱暴すぎるけど、深く考察してみる価値のあるテーマだと思う。