院長ブログ

オーバーチョイス

2020.1.16

少子高齢化が、ゆっくりと、しかし着実に、進行している。「このままでは国力が衰退していく。この国の未来は明るくない」と多くの学者が警告している。
個人的には、この警告には同意しかねる。経済的に衰退することが、そのままイコール「暗い未来」だとは言えないと思う。
ただ、年度末の確定申告の時期であり、自分が納める税金の額を意識する時期でもある。「こんなに引かれるのか!」と思う。これが、「少数の若者が多くの高齢者を支える」ということの意味なんだな。
重税国家。
引かれる税金の重さから、国家の焦燥感がひしひしと伝わってくるような気がする。未来に備えるために、お役人も必死なんだろうな。
ちゃんと納税するから、天下り官僚の退職金とかにはあてず、ちゃんとした用途に使ってね^^

そもそも、なぜ、少子化が進んでいるのか。
いろいろな原因が言われている。女性の社会進出、価値観の変化などを挙げる人もいれば、シャンプー、歯磨き粉、化粧品、ワクチンなどに含まれる不妊成分や内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の影響を挙げる人もいる。
「少子化ではなく、少母化である」という記事があった。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/post-92140.php
この記事を短く要約すると、「結婚した女性が産む子供の数は、この30年でそれほど減っていない。減っているのは、結婚する女性の数である。つまり、結婚さえすれば、女性は子供をちゃんと(30年前と同じように)産んでいる。問題は、少子化というよりは、母になる人が減っている”少母化”である。従って、女性の未婚化を抑えることが、少子化への有効な対策である」

では、なぜ、結婚しない(できない)のだろうか。

選択肢が多すぎるせいじゃないかな。
インターネットのなかった昔、世界はずいぶん狭かった。就職した女性は、会社の男性社員と結ばれるのがお決まりだったし、見合いで結婚する人も多かった。女性たちは分不相応を心得ていて、変に高望みすることがなかった。
一方、今はマッチングアプリで恋愛を探す時代である。無数の選択肢の中から、好みの男性を選ぶことになる。
一見、多くの選択肢があることは、好ましいことのように思えるが、単純にそうとばかりは言い切れない。

『選択肢の数をパラメーターとする関数としての購買行動』
http://avnimshah.com/wp-content/uploads/2013/04/Shah-A.M.-Wolford-G.-2007.pdf
この論文に、こんな研究が紹介されている。
「多過ぎる選択肢は、生産性にとってかえって逆効果である。このことを示すエビデンスが近年多く報告されている。P&G社は、商品の種類を減らすことで、主力商品の売り上げが10%増加することに気付いた (Goldstein, 2001)。
Iyengar and Lepper (2000) は、被験者に少数の選択肢(6個)のなかからものを買う場合と、多数(24個とか30個とか)の選択肢のなかからものを買う場合の、被験者心理を研究した。被験者は多くの選択肢のなかからものを選ぶことを好ましいと思ったが、購買数が多く、かつ、自分の選択への満足度が高かったのは少数の選択肢から購入したときだった」

なかなか興味深い人間心理だと思いませんか。
希望としては、多くの中から選びたいと思う。その方が、質の高いものを入手できる可能性が高まるわけだから。でも、多くの選択肢を比較考量することは、大変な作業で、実はけっこうめんどくさい。食べログとかの評価サイトがはやるわけだよね。選択肢が無数にあっては、もはや自分で考えることもできないから、他人の評価を目安にするんだな。

まさに、マッチングアプリを使う男女の心理の研究もある。
『パートナー探し〜オンラインでのパートナー探しにおける選好』
https://www.researchgate.net/profile/Alison_Lenton/publication/3230508_Shopping_for_a_Mate_Expected_versus_Experienced_Preferences_in_Online_Mate_Choice/links/0c96052249e6fe4acc000000/Shopping-for-a-Mate-Expected-versus-Experienced-Preferences-in-Online-Mate-Choice.pdf?origin=publication_detail
「現代のテクノロジーの進歩によって、衣食住あらゆる分野で、選択肢の数が増加している。それは配偶者探しにおいてもそうである。しかし、選択肢は多ければ多いほどよいものだろうか。
オンラインでのパートナー選びに際して、選択肢が増えると選好にどのような影響が生じるかを検証するため、実験を行った。
被験者は、事前の予想として、少ない選択肢の中から選ぶよりも多くの選択肢からパートナーを選ぶときのほうが、楽しく、満足度が高く、後悔も少ないはず、と考えていた。しかし実際には、理想的とされる選択肢数から選択しても満足度は向上せず、むしろ、少数の選択肢を提示されたときよりも記憶の混乱を来たしていた。
被験者は事前に「選択肢の数が増えると、コスト(比較考量のためのエネルギーや時間)がかかる」ことを予想しており、この点では正しかったが、どの程度の選択肢数でこのコスト増加が起こるのかについて、予想が甘かった。「いっぱいの中から選びたい」と欲張るけど、頭の良さがついていかないのだね^^;
このような乖離が起こるのは、人間の認知フレームワークによるものだ。このフレームは人間が進化の過程で得てきたもので、頭でわかっていてもこの傾向を是正するのは難しい。こうした知見は、マッチングアプリの設計に生かすことができるだろう」

多くの中から選びたい、というのが人間の本能で、マッチングアプリの出現は、その欲求を見事に叶えてくれた。しかし皮肉にもその結果、僕らは「選べなくなってしまった」。
30年前はそうではなかった。選択の自由なく、親の言うがままに見合いでさっさと結婚して、さっさと子供産んで、明るい家庭を築く。
どっちがよかったんだろう。
選択の自由は、結局僕らを幸せにしてくれたのかな?