人間はいつから火を使い始めたのか。
これには諸説あって、170万年前とする人もいれば、20万年前とする人もいる。12万5千年前の遺跡から火を使用した痕跡が見つかっていることから、少なくとも10万年前には火を使っていたのは間違いない。
人類が発生したのが500万年前、火を使い始めたのが10万年前だとすると、人類は490万年のあいだ、口にするものは生ものばかりだった、ということである。草食動物が生の葉を食べ、肉食動物が生の肉を食べるように、雑食の人間は植物や動物を生で食べていたはずで、それが人間本来の食性だった。
しかし火の使用は状況を一変させた。
加熱によって食材が柔らかくなり、風味が増す一方、ある種のビタミンや酵素は加熱により変性し失活する。また、生で食べるのと加熱して食べるのとでは、栄養素の吸収率や消化器系への負担がかなり異なる。
つまり、食材の加熱にはメリット、デメリットが混在していて、一概にどちらが優れているというのは言いにくいが、生のものも加熱したものも様々に食べるようになったことで、食卓のバラエティが非常に豊かになった。
ただ、現代人の食卓に並ぶのは加熱調理した食材が大半である。肉であれ野菜であれ、「生で食べるのは粗野で、加熱調理こそ洗練された食べ方」というのが一般的なイメージだろう。
だから、日本に初めてきた西洋人が日本の食文化を初めて見たとき、彼らは身震いした。何しろ、生の魚を薄くスライスし、それを加熱もせずにそのままソイソースに漬けたのを二本の棒で器用につまんで食べたり、握って固めた米の上にそのスライスを乗せて手づかみで食べるのだから、野蛮この上ない。今ではsashimiやsushiとして一応の市民権を得たこの食文化も、当初は非常に奇妙に映った。
今や日本もすっかり西洋化されて、刺身や寿司のような例外は除き、「熱によって病原菌や寄生虫を殺し、清潔になってこそ、食用に適する」という考え方がすっかり浸透した。
しかしこの清潔文化を推し進めた結果、アレルギーや喘息など、慢性病患者の大群を作り出すことになった。
「何か間違っているのではないか。人間が490万年間続けてきた本来の食性に戻ることで、人間は再び健康になれるのではないか」
行き過ぎた清潔思想への反省から、生肉を食べる人が次第に増えているという。清潔化を推し進めていた本場の西洋でこういう運動が広がっているのがおもしろいと思う。
動画のこの人は、ほとんど生肉しか口にしていない。
英語が分からない人でも動画を見れば何となく意味は分かると思うけど、一応、ざっと翻訳しておこう(かなりテキトーです^^;)
ケンタッキー州レキシントンに住むデレク・ナンス氏。
「食事の9割は羊の肉。羊のはらわたをね、こういう具合にスムージーにして飲む。
この9年食べているのは生肉ばかりだよ。でも体調は、これまでの人生の中で一番いい。
これは羊の精巣。ちょっとしょっぱい味がする。赤身肉というか、海の幸って感じ。
昔は普通のアメリカの食事を食べていたよ。で、アレルギー体質で、頭痛持ちで、喘息もあって。
さらに、ある種の食べ物に過敏で、食べるとすごく体調が悪くなるんだ。
肉をね、こんな具合に噛む。そう、本当、ガムみたいに一日噛んでいる。ついでに歯磨きにもなっていると思う。
こういう食事をしだしたきっかけは、ウェストン・プライス財団を知ったことだ。原住民がどんな食物を食べているのか、という研究が行われていてね。
そこで肉をベースにした食事スタイルがあることを知って、それでやってみようと。
ちょうど体調が悪いときで、何を食べても消化がうまくできないときだったんだけど、生肉なら食べられそうな気がしてさ。
では、はらわたのスムージーの作り方をお目にかけよう。
これ、小腸ね。他にもいろんな腸の部位がある。こんな具合に、ぜーんぶスムージーに入れる。「羊の腸内の細菌が怖くないか」って言われるけど、全然。
というかむしろ、プロバイオティクスとして、僕の腸にいいと思う。
妻から「あなたのブレンダーはこれって決めてね。私のブレンダーは使わないで。羊の腸のにおいがうつるから」って言われたけど。
生肉に含まれる栄養というのは、もう、本当に素晴らしいと思う。なぜかといって、生肉には調理プロセスで抜けてしまう栄養素が丸ごと入ってるから。
テーブルに座って、この骨を15分とか20分、がしがし噛む。こうやって、犬みたいにね。
で、さらに、こうやって骨を砕いて、なかの骨髄もすする。
スーパーとかに行って、ラベルの貼られたパック詰めの肉を買うより、僕はもっと直球で行きたい。つまり、牧場に行くんだ。
それで、動物を買って、僕のトラックに乗せて、それで家の裏庭でさばく。楽しいよ。
肉は、ホールで頂く。肉から内臓から、もう、全部。いろいろな部位があってさ、食事がバラエティ豊かになるよ。
これ、腎臓。栄養満点だよ。食事のメインだね。
4人の子供がいる。妻はもともとベジタリアンだった。
妻「デレクに出会わなければ、私はずっとベジタリアンだったと思います。デレクの肉の頂き方は、スーパーで肉を買うよりもはるかに倫理的だと思います」
動物の大きさにもよるけど、大人の羊だと一頭だいたい175ポンドで、値段は200ドル。これで1か月は持つ。僕の食べ物の90%はこういう肉だよ。
子供にも小さいときからこういう食事をさせている。
子供「絶対みんな変って言うだろうね」
卵とってきてよ。
子供「見つけたら生で食べていい?」
食べたいならね。
子供「お父さんが肉以外のものを食べてるのって、見たことない。
もう慣れてるよ。友達からは「変だ」って言われる。で、僕も「そう、変だね」って答える」
私のことを問題視した教師がいた。「子供の前で肉をさばいているとは何事か」と。だから、ソーシャルワーカーに説明した。説明したら、ちゃんとわかってくれて解決したよ。
でも、子供はきついかもしれない。「お前のおやじは狂ってる」って言われたり。
なぜ世間一般の子供が生肉を食べちゃダメってことになっているのか、理解できない。ちゃんとした環境で育った動物の肉なら、何も問題はない。
もうね、はっきり教育がまずいと思う。「細菌こそが万病のもと」ってパラダイムでしょ。で、全部消毒して清潔にしましょう、と。
僕は、生命をきちんと頂こう、と決めたんだ。
ここには骨を埋めてる。いい肥料ができるよ。で、これを分解しようとしてわいてくる、このうじ虫ね。これも食べれるよ。こんな具合に。
このうじ虫の体内に含まれる酵素が、私の胃腸の消化を助けてくれる。
誰にもこういうスタイルを勧めようとは思わないよ。
ほら、二か月ほど寝かせたレバー。いい感じに発酵している。ほら、ここにカビが生えている。
これがいいんだ。プロバイオティクスになってね、こんな具合に食べる。
体調には何も問題ない。
冷蔵庫に1週間放置した古いチキンを食べて下痢をしたことがあるくらいかな。
もう10年このスタイルを続けているけど、やめるつもりはないよ。」
そう、プライス博士が世界中で見たのは、原住民たちが生肉をいかに尊ぶか、ということだった。
イヌイットはアザラシを、アフリカ原住民は牛を、感謝とともにさばき、血の一滴も無駄にしないように、まるごと頂く。人間の食事は本来こうあるべきなんだろうね。
ただ上記の動画のような生肉食事法は、国土が広く庭も広いアメリカだからこそ実行しやすいのであって、日本人がこれをやるのは難しいと思う。
個人的には、たまに羊肉を生で食べたりしている。ユッケみたいでおいしい。特におなかを壊したこともない。
でも食中毒のリスクを考えれば、医師としては積極的には推奨しにくいな。自己責任でどうぞ!^^