質問:バイオフィルムの分解によって子供たちの体内から有害金属が出てきたのはなぜでしょうか?
コーエン:こう考えてみてください。これらの有害ミネラルは皆カチオンで、正の電荷を帯びています。EDTAがこれらをキレートできたのは、これが理由です。水銀、銅、その他の重金属も正に帯電しています。なぜ細菌はカルシウムやマグネシウムを好んでバイオフィルムに利用するのでしょうか。使おうと思えば、正に帯電している金属なら何でも使えるはずなのに。この点こそが、私の長らく取り組んできたバイオフィルムに関する仕事の最もおもしろいところです。バイオフィルムの基質を分解し、細菌がフリーになると、有機酸の血中濃度が高くなる(ある子供では400にまで達しました)ばかりではありません。金属を腸に排出し始めるのです。
質問:ということは、金属も細菌も腸にいたということですか?
コーエン:その通り。去年5月にシカゴで行われた自閉症学会で、ある研究者が脳組織中のプロトン(陽子)を解析した結果をプレゼンしました。彼は自閉症児の脳に水銀があることを証明しようとしましたが、見つけられませんでした。しかし彼は、重金属曝露の結果として、ミクログリア(微小膠細胞;中枢神経系の免疫系で主に働くグリア細胞の一種)が活性化する証拠を発見しました。では、どこにこの重金属があるのでしょうか。それは、細菌とともにバイオフィルムのなかにあり、しかもそれは腸のなかにある、と私は主張しているのです。
逆に、バイオフィルムが一般的なミネラルとともに、重金属でできていないとすれば、なぜ突然、便のなかに大量の金属が検出されたのでしょうか?
質問:先生の治療法は具体的にどんな感じでしょうか?また、どんな手順で進めていくかも教えてください。
コーエン:まずはナットウキナーゼやルンブロキナーゼあたりの酵素から始めます。もっと強くフィブリン溶解効果を得るために、他の粘膜溶解酵素を併用することもあります。
ウスマン先生はレンサ球菌のバイオフィルムを分解するためにはナットウキナーゼが特に効くと感じておられます。レンサ球菌はバイオフィルムによって子供の健康に悪影響を与えていることが非常に多い印象を私は持っています。というのも、レンサ球菌の滴定を行うと、その値が高いことが頻繁にあるのです。
そして、こういう子供たちでは(もちろん大人でも、ですが)、レンサ球菌が神経症状の原因になっています。強迫性障害の傾向がしばしば見受けられ、ときにはほとんど精神病として出現することもあります。明らかな症状を伴った急性発症、という形で出現することはありません。
質問:何をどれくらい摂取するよう勧めますか?
コーエン:注意しておいて欲しいのは、こうした患者はごくごく子供だということです。なかにはほんの3、4歳という子供もいます。だから私は、カプセルの半量分を、1日2回服用するように勧めています。これは、ナットウキナーゼなら50mgカプセル1錠、ルンブロキナーゼなら20mgカプセル1錠です。
最初はこれらの酵素をEDTAと一緒に摂り、それから30分後に、”抗菌ブレンド”を投与します。
この抗菌ブレンドには、ベルベリン(黄檗や黄蓮に含まれる成分)、アルテミシニン(よもぎに含まれる成分)、柑橘類種子抽出物、黒クルミの外皮、よもぎ、エキナセア、ゴールデンシール(ヒドラスチスの成分)、ゲンチアナ(リンドウ)、ティーツリーオイル、カラクサケマン、ガルバナムオイル、オレガノオイル、ニームが含まれています。さらに、必要に応じて、バンコマイシン、ジフルカン、ゲンタマイシンなどの抗生剤も使います。毎日違うものを使います。それから1時間後、はがれたバイオフィルムや死菌などの残骸を掃除します。そこで使うのが、”吸収剤”です。具体的には、キトサン、柑橘類ペクチン、特製の重炭酸塩、有機ゲルマニウム、クロレラなどです。”緩衝剤”として徐放型ビタミンCなども使います。体内で細菌が破壊されると体液が酸性に傾くので、その影響を緩和するためです。ミネラル濃度を測り、必要があれば補わないといけません。経過を追うために、採血、尿検査、便検査を2か月ごとに行います。
質問:酵素、EDTA、抗菌ブレンド、吸収剤、緩衝剤を使うわけですね。効果のほどはどうでしょう?
コーエン:すばらしく効きます。バイオフィルムに対するアプローチこそが、ミッシング・リンクでした。
ある自閉症の少年がいました。彼の腸内はバイオフィルムまみれでしたが、いまやすっかり回復しています。当初は銅の血中濃度が極めて高く、毛髪の銅濃度は、銅そのもの、と言いたいくらいでした。回復後、毛髪の銅濃度はごく微量でした。この少年は毛髪に銅を排出することで回復したのではありません。ぶ厚いバイオフィルムを溶かしたことで銅が飛び散り、何か月もかけて便中に排泄されたのです。この男の子の場合は銅でしたが、水銀の排出に取り組んでいる子もいます。
質問:お話を聞いていると、このアプローチは慢性感染症がからんでいるどのような慢性症状にも効くような気がします。
コーエン:おっしゃる通りです。SLE、ライム病、多発性硬化症、その他、どのようなタイプの自己免疫疾患であれ、バイオフィルムによる慢性感染こそが、その背景にあると私は考えています。
注目すべきことは、なぜ免疫系が機能せずにこうした状態が持続しているのか、ということであり、また、どのようにして本来異物として認識されるはずの細菌が生き延びているのか、ということです。免疫系が機能不全に陥っているのか、あるいは、細菌が自身を変形させて免疫系の攻撃を回避しているのか、このどちらかです。答えは明らかでしょう。これがバイオフィルムの本質です。今日医学が取り組んでいる最大の問題のひとつであり、すでに解決法は見つかったものと考えています。
次回に続く。