院長ブログ

てんかんとビタミン

2019.12.2

西洋医学と栄養療法の間には、残念ながら不幸なすれ違いがあって、激しくいがみ合っている。
栄養療法陣営は「西洋医学は症状を無理やり抑え込むしか能がない。おまけにひどい副作用まであったりする」と批判し、西洋医学は「ろくにエビデンスもないニセ医学のくせに、患者の不安につけこんで高額な治療費を請求したりする」と批判する。
お互いが相容れない水と油のようなものかというと、別にそんなことないと思う。手を取り合って、仲良くやっていけるところもあるはずなんだ。

西洋医学の長所は、症状をすぐに軽減してくれるところ。
幻覚妄想状態で自傷(あるいは他害)の恐れのある統合失調症患者に抗精神病薬を投与したり、急性腹症に対して緊急手術を行ったりして、急場をしのぐ手段としては極めて優秀だ。
短所は、慢性疾患に弱いところ。長く飲み続けるメリットのある薬はほとんどない。逆に、副作用にからみとられて、かえって健康を損ねることも珍しくない。
栄養療法の長所は、症状の根本的な原因にアプローチして健康を取り戻せるところ。しかも副作用がない。
短所は、多くの場合、即効性がないこと。「バファリンを飲んだら頭痛がすぐ消えた」という具合に効くことはあまりない。じっくり取り組んでもらう必要がある。

西洋医学と栄養療法、お互いの強みを生かして、補い合えばいいんだ。
「西洋医学の薬を飲むか、栄養療法でいくか」の二択ではなく、両方使う手があってもいい。ビタミンやミネラルのサプリを使うことで、薬の必要量を軽減できることはよくある。薬を減らせれば、それだけ副作用も少なくなる。
もちろん究極的には、薬の使用量がゼロになることが望ましいが、栄養療法はそういう減薬・断薬の助けになるだろう。
たとえば、抗てんかん薬を飲んでいる患者。
ビタミンE(1日400 IU)を飲むといい。効果は数か月以内に現れる。けいれん発作の頻度が、ほとんどの患者で60%減少し、半数の患者では90%~100%減少した。
一緒にマグネシウムをとればもっと効く。バルプロ酸(デパケン)を飲んでいるのなら、カルニチンを補うのもいい。副作用が緩和されるだろう。

『バルプロ酸に起因する毒性治療におけるカルニチン』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19280426

『小児てんかん患者にアドオン療法としてDαトコフェロール酢酸(ビタミンE)を加えたプラセボ対照無作為化二重盲検』
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1528-1157.1989.tb05287.x
要約
「抗てんかん薬が効かない24人の小児てんかん患者(全身性強直性間代性発作およびその他のけいれんも含む)に対して、現在投与中の薬にDαトコフェロール酢酸(ビタミンE)を1日400 IUを加えたところ、12人中10人で症状が大幅に軽減した。これはプラセボ群とは有意に異なる結果だった。これは抗てんかん薬の血中濃度が上昇したことによるものではない。副作用は見られなかった。症状が改善した10人において、血中のビタミンE濃度が上昇していたが、改善しなかった2人およびプラセボ群では変化がなかった。その他の血算、生化学の検査結果では、臨床上有意な変化はなかった。」

西洋医学のお医者さん、栄養療法のお医者さん、まず、お互いが認め合うことが大事だ。
「抗てんかん薬、確かに効くね。すみやかにけいれんをとってくれる、ありがたいお薬だ」と栄養療法陣営は認める必要があるし、「ビタミンやミネラルで、確かに薬の使用量を軽減できるようだ」と西洋医学の先生も認めてくれないようでは、話が進まない。
栄養療法を開始した患者では、薬の使用量が減り、ついに薬を飲む必要がなくなる、という人も出てくることだろう。
そうなれば、患者は、患者ではなくなる。つまり、もう病院に来なくなる。
ビタミンやミネラルのサプリは薬じゃなくて食品扱いでネットとかで誰でも買えるから、自分で買って飲むようになるだろう。
病院経営という意味では、正直、ちょっと痛い。これは栄養療法陣営、西洋医学陣営、両方に言えることだろう。
でも、それでいいじゃないか。僕ら医者のプライオリティは、患者の回復にこそあったはずだ。
「医は算術」と揶揄されるようになって久しいが、ネットによって医学的知識が医者の独占物ではなくなったこの時代、そういう医療は通じなくなってくると思う。
結局、大きな流れとしては、みんな「医は仁術」に立ち返ることになるんじゃないかな。