院長ブログ

降圧薬

2019.11.28

一般の人が「こうあつやく」と聞くと、頭の中で何となく、「高圧薬」という漢字変換が行われて、むしろ血圧が上がりそうな薬をイメージするようだ。正しくは「降圧薬」ね。
もっとも、このイメージはそれほど間違っているわけではなくて、2年以上降圧薬を服用している人では薬の血圧降下作用がほとんどなくなっているという研究もある。
人間の体は、バカではない。必要があるから、血圧を上げているんだ。そういう背景を無視して薬で無理やり血圧を下げても、薬の作用に負けずに2年がかりできちんと血圧を上げる、ということだ。人間の適応能力はすばらしいな。
ちなみに血圧を上げる薬は、高圧薬ではなく昇圧薬で、イノバンとかボスミンとか、救急でよく使われます。

一口に血圧を下げるといっても、様々な機序があって、各製薬会社から様々な薬が販売されている。これは裏を返せば、血圧を上げることが生存にいかに大切であるかを示している。仮に昇圧メカニズムのひとつが破綻しても、複数の機序を用意していれば、生存の可能性が高まることは想像に難くない。

現在、降圧薬の売れ筋はARB(アンギオテンシン2受容体拮抗薬)だが、かつてはカルシウムチャネル拮抗薬が主流だった。今でももちろん処方されているが、単剤よりはARBとの合剤(たとえばミカムロ)として、処方されていることが多い印象だ。
しかしカルシウムチャネル拮抗薬には、うさんくさい話がつきまとっている。

『降圧薬治療にまつわる心筋梗塞のリスク』
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/389492
この論文によると、カルシウムチャネル拮抗薬服用者では、心筋梗塞の発症率が増加したという。心筋梗塞の再発予防に降圧薬を処方されるのはよくあることだけど、カルシウムチャネル拮抗薬ではむしろ逆効果だということだ。

『駆出率の低下した心不全患者におけるカルシウムチャネル拮抗薬』
https://www.uptodate.com/contents/calcium-channel-blockers-in-heart-failure-with-reduced-ejection-fraction
駆出率の低下した心不全患者がカルシウムチャネル拮抗薬を服用しても、心機能、予後、どちらの意味でもメリットがないから、飲んではいけない、という論文。

こんな具合に、カルシウムチャネル拮抗薬の薬としての有効性を疑問視する論文は多い。一方、「いや、そんなことはない。よく効く優秀な薬だ」と擁護する論文もある。
どちらが正しいのだろうか。
そもそも、薬の有効性という極めて科学的な話なのに、なぜ意見が割れるのか。

これは単純な話で、カルシウムチャネル拮抗薬を支持する医者や研究者には、製薬会社からきっちりお金がいってたんだ。
「仮にも真理を追求する学者が、お金で事実を曲げるわけがない」と思いますか?
このあたりを検証した論文がある。

『カルシウムチャネル拮抗薬をめぐる利益相反』
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199801083380206
【背景】
医者と製薬業者の間の金銭的関係は、問題視されるものである。利益相反を生む可能性があるからだ。医学教育や医学研究に対する製薬会社の金銭的サポートが、医師や研究者の意見・行動にどの程度影響を与えるかは、知られていない。カルシウムチャネル拮抗薬の安全性に関する最近の議論は、利益相反の影響を検証する機会となった。
【方法】
1995年3月から1996年9月までに出版された医学文献のなかで、カルシウムチャネル拮抗薬の安全性の議論を検証する記事を検索した。記事をレビューし、カルシウムチャネル拮抗薬の使用に対して、支持的、中立的、批判的、に分類した。
それらの記事の著者らに、カルシウムチャネル拮抗薬の製造業者や競合他社製品(βブロッカー、アンギオテンシン返還酵素阻害薬、利尿薬、ニトロ系薬)の製造業者と金銭のやりとりがあったかどうかを尋ねた。製薬会社とそうした金銭のやりとりがあるとき、カルシウムチャネル拮抗薬の安全性に関する著者らの立場がどのような影響を受けるかを、我々は検証した。
【結果】
カルシウムチャネル拮抗薬を支持する著者は、中立的な著者や批判的な著者よりも、カルシウムチャネル拮抗薬の製造業者と金銭のやりとりがある可能性が有意に高かった。(支持:96%、中立:60%、批判:37%)
支持的な著者は、中立な著者や批判的な著者よりも、製品に関わらずどのような製薬業者とも金銭のやり取りをしている可能性が有意に高かった。(支持:100%、中立:67%、批判:43%)
【結論】
我々の結果は、著者がカルシウムチャネル拮抗薬の安全性についてどのような立場をとるかと、製薬業者との金銭のやりとりとの間に強い相関があることを示している。
医師は、利益相反を防ぐ有効な方法を考える必要がある。製薬会社の商品を検証する記事を書く医師や研究者は、製薬会社との関係性を完全にオープンにすべきだと我々は考えている。

医者と製薬会社の癒着なんて、医者なら誰でも知っている。
薬の宣伝のために講演したり論文を書いたりする人はさすがに少ないが、製薬会社から弁当やボールペンをもらったことのない医者はいない。ただ、統計的有意差という、申し開きも弁明もできない明瞭な形で癒着ぶりが明らかになったという点に、上記論文の意味がある。
こんなのは当然カルシウムチャネル拮抗薬に限ったことじゃなく、あらゆる薬のマーケティングで行われていることで、最終的に割を食うのは、薬を口にする患者に他ならない。
21世紀も延々こんな茶番が続くのかな。