血管はどのように作られるのか。
成人の場合、当然すでに血管があって、その血管の内皮細胞が遊走・増殖して血管新生(angiogenesis)が起きる、というのが定説だった。
ところが、1997年理研の朝原が成人末梢血中に血管内皮前駆細胞(EPC)を発見したことで、胎生期にのみ認められるとされていた血管発生(vasculogenesis)が成人にも見られることが明らかになった。
それ以来二十余年が過ぎ、EPCにまつわる研究が世界中で行われ、様々な知見が蓄積した。
たとえば、、、
↓アルツハイマー病患者ではEPCが少ない。
↓脳卒中を発症したとしても、EPCの高い群と低い群で分けると、予後(脳卒中重症度評価スコア)が有意に違う。
↓高齢になるにつれ、あそこの立ちが悪くなるものだけど、勃起不全の重症度とEPCには負の相関(EDがひどいほど、EPCが低い)が見られた。
頭痛持ちの人では、EPCが低いこともわかっている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22815557
発症に血流が関与している病態のほとんどすべてに、EPCが関与しているかもしれない。
ということは、、、血中のEPC濃度は、健康状態の指標として非常に優れたマーカーとなるのではないか?
EPCを増加させるような生活習慣は好ましいし、逆に減少させる習慣は避けるべき、ということができるのではないか?
このように考えた研究者が、タバコとEPCの関係を調べたところ、やはり、予想通りだった。
禁煙期間が長くなるほど、EPCが増えていく。逆に、喫煙を再開すると、元の木阿弥、EPCがまた減少する。
こんな具合に、EPCを増やす習慣、減らす習慣を調べた結果は、以下のようにまとめられる。
【EPCを増やす習慣】
運動、ポジティブな感情、ファスティング、適切な体重、良質な睡眠、適切な栄養、非喫煙、高地在住
【EPCを減らす習慣】
炎症、酸化ストレス、質の悪い睡眠、栄養欠乏、喫煙、抗生剤
食事としては、具体的には、
【EPCを増やす食事】
低脂肪・低炭水化物、食物繊維、睡眠3時間前に食事を口にしない、コーヒー(オーガニック)はOK
【EPCを減らす食事】
精製小麦、糖質過多(特に白砂糖)、人工甘味料、植物油(リノール酸過多)、乳製品、加工肉
さらに、EPCを増やす栄養素としては、ビタミンC、マグネシウム、アルファリポ酸、ビタミンDなど、たくさんある。
たとえばビタミンDとEPCの関係性。
Aは健康な被験者の血液。Bは糖尿病患者。Cは同じ糖尿病患者がビタミンDを服用した後。
糖尿病患者ではEPCが減少しているが、ビタミンDの服用によってEPCが増加していることがわかる。
『ビタミンDの血管内皮前駆細胞の機能に対する影響』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5435351/
科学の進歩がおもしろいのは、物事のメカニズムを説明する言葉が増えるところだと思う。
たとえば、ビタミンCがなぜ体にいいのか。
抗酸化作用、免疫増強作用、コラーゲン産生促進作用といった言葉で説明されているが、研究により「EPC産生増加作用」という機序がさらにひとつ、付け加わったことになる。
逆に、「EPC産生増加作用」という切り口でみれば、ビタミンC、ビタミンD、マグネシウムは同様の働きをしている、というのもおもしろい。
臨床で患者を見ていて、つくづく不思議なのは、患者の治り方が一通りではないことだ。
体の不調がファスティングでよくなる人もいれば、サプリメントの摂取でよくなる人もいる。
ぜんそく患者がビタミンCで治ることもあれば、ビタミンDがよく効く人もいる。
なかなかよくならない摂食障害の患者を見ていたことがあるけど、あるときその人に彼氏ができて、症状があっさり治ってしまったことがある。正直言って、僕は医者として何もしてないと思う。
これらの話は全部、EPCの産生増加、という機序で説明がつく。いろいろな治り方の背景に、共通する血液マーカーの改善があるわけだ。
ここまでならおもしろい。医学の進歩ってすごい、と思える。
ただ、現代医学の行き過ぎなところは、この流れを逆用するところなんだ。
つまり、病態に対して、「体外で増殖したEPCクローンを再び体内に戻し血中EPC濃度を高めてやれば、病態が改善するのではないか」というアプローチをする。
こうなると、急にうさんくさい感じがする。原因と結果を無視して結果を無理やりとってつければ、原因が改善するとでも?研究者って、頭いいのかバカなのか、わからない。
炎症にステロイド、の発想と同根で、西洋医学というのは結局対症療法に陥ってしまう。
参考:「オーソモレキュラー医学の最新動向」(2019年11月10日の柳澤厚生氏の講演より)