60歳女性Aが早朝に腹痛を訴えて近医救急外来を受診。対応した当直医は、冷や汗を流す患者の痛がり方が尋常ではないと思った。
CTを撮ったところ、腹腔内に明らかな異常所見があった。Aに詳しく聞くと、盲腸の手術歴があることがわかった。
これを聞いた当直医は、腑に落ちた。虫垂炎の術後、小腸と卵管が癒着し、イレウスを起こし、そこから穿孔、反発性腹膜炎、という流れだな。
すぐに消化器外科に照会し、即日入院となった。BがAの主治医として、オペ(回盲部切除術、腹腔ドレナージ術)を行った。
Bは腕のいい外科医で、手術は無事に成功に終わった。しかし不幸だったのは、Bにビタミンに関する知識がまったく欠けていたことである。
もっとも、これは一人Bの責任とばかりは言い切れないだろう。現在の医学部においてビタミンの教育に割かれる授業時間など、ほとんどないに等しいのだから。
Aは手術後完全絶食で、高カロリー輸液の点滴が継続された。ビタミン剤の混入投与は行われなかった。
数日して嘔気・嘔吐が見られるようになり、便秘がちとなった。Bは上部内視鏡検査を実施したが、どこにも異常がなかった。
さらに数日後、病棟のナースがAの意識が消失していることに気付いた。すぐさま救命措置(人工呼吸器の装着、心臓マッサージ)が行われたが蘇生することなく、そのまま死亡した。
死因は脚気衝心、つまり、極度のビタミンB1欠乏に起因する急性心不全である。つまり、主治医Bのビタミンに関する無知が引き起こした悲劇だった。こういう医療ミスは病院においては日常茶飯事である。
テキトーな理由をつけて「この死亡はやむをえないことでした。私の力が及ばず申し訳ありません」とBが無念そうな表情をして謝れば、遺族は素人である。何も言い返せない。
しかしこの遺族は、どうしも納得できなかった。なぜ俺の妻は死んだんだ、なんで私のお母さんが死ななきゃいけなかったの。無念の遺族は、Aの入院から手術、手術から術後の経緯を、徹底的に調べあげた。
そしてついに、高カロリー輸液にビタミン剤を混入投与しなかったBの過失を発見し、損害賠償請求をするに至った(大阪地裁堺支部平成12年2月25日判決)。
現在の医学部教育は、製薬会社に完全に首根っこを押さえられている。
ビタミンで病気を治す栄養療法など、言語道断。薬が売れなくなってしまう治療法は極めて不都合である。
そんな治療法が医学部で教えられることがないよう、医師会や医学界に手をまわしている。
しかし現場で働く医者は、上記のように、栄養に関する無知が悲劇を招いたとしても「教育が悪いんです。医学部でビタミンのことを教えてもらわなかったので」と言い訳することはできない。
インターネットの普及によって、医学的知識がもはや医者の専有物ではなくなったし、西洋医学がいかにデタラメかということも広く知れわたるようになった。当の医者のなかにも、投薬一辺倒の医療に疑問を感じる人が出始めている。
医学部で教えてくれないのだから、医者はビタミンのことを自分で勉強するしかない。でないと本当に患者から見放されてしまうと思う。
(お医者さんの皆さん、「ビタミンについて自学自習したい」ということであれば、拙訳『オーソモレキュラー医学入門』の出番ですぞ!)
ビタミンB1についての知識は、精製糖質や精白した炭水化物が多食される現代において、ますます重要になっている。
隠れ脚気は相当数いるはずで、こういう人は要するに、甘いものをやめれば回復するはずだけど、B1を補給すればさらに回復が早いだろう。
僕は大学時代、山岳部に所属していた。そこである先輩から、こんな話を聞いた。
「ある男が山で遭難した。食糧の持ち合わせはなかったが、ただ、氷砂糖が一袋だけあった。空腹を氷砂糖で紛らわして救助を待っていたが、五日後に発見されたときには失明して半死半生の状態だった」
本当の話か、都市伝説か、わからない。
脚気で失明するというのは考えにくいから。ただ、話としてはおもしろいと思う。精製糖質の摂取は、その代謝プロセスでむしろビタミンやミネラルを奪う。つまり、マイナス栄養ということだ。
なまじっか氷砂糖をなめるよりは、何も食べずにじっと耐えてるほうがマシだった。
せっかく才能のある選手なのだから、誰かこの人に栄養の重要性を教えて、しっかり食事を管理してあげたほうがいい。
お菓子を多食する選手で、大成した人なんていないよ。