ツイッターにこんな投稿があった。
同じような感想を持った人は、案外多いのではないか。
10年以上前から薬物をやっていたというが、それにしてはきれいすぎる。もっと美貌が衰えていてもよさそうなものだが、薬物中毒者にありがちなやつれた様子は見受けられない。それどころか、ドラマやCMへの出演など仕事は絶好調だった。
一方、先だって逮捕された田代容疑者の容貌。
薬物に身を落とした人物として、通常我々が抱くイメージに近いと思う。
沢尻と田代、どちらも薬物にハマりながら、一方は美しいままで、一方はやつれている。
この違いは、使用していた薬物の違いによるものだろう。
横軸に有害性、縦軸に依存性をとって、各種の薬物を位置づけたグラフである。
沢尻氏はMDMA(エクスタシー)の所持・使用容疑で逮捕されたが、取り調べに対し「大麻、LSD、コカインもやった」と供述している。
グラフを見ればわかるように、コカインを除いて、いずれの薬物も有害性、依存性とも高くない。むしろ、一般に使用が許されているアルコールやタバコのほうが体に悪い(有害性、依存性とも高い)。
田代氏が使用していたのは覚醒剤(アンフェタミン)で、LSDやエクスタシーよりも危険なドラッグだとわかる。
興味深いのは、このグラフに分類されているドラッグのほとんどが、かつては医薬品として普通に用いられていた(あるいは現在も用いられている)ことだ。
有害性、依存性とも最悪のドラッグ、ヘロインは、「依存性のない奇跡の薬」としてドイツで売り出され、販売から三十年間、自由に入手可能だった。
バルビツール酸系薬物は芥川龍之介が自殺のときに服用したことで有名。ベンゾジアゼピンの登場以後、処方されることは少なくなったが、今でも手術の麻酔として使われている。
そもそも、医薬品とドラッグの明確な線引きなんて存在しない。それは恣意的なものだ。
「かつては医薬品だったが今は禁止薬物」というパターンが多いが、逆もあり得る。
たとえば、沢尻氏の一件で注目されているMDMAだが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療薬として治験が進行中だし、他にも自閉症患者の社交不安、癌患者の抑うつに対する治験も行われている。
数年のうちにMDMAが、違法なドラッグから大真面目な医薬品に、いわば「昇進」する可能性は、相当高いと思う。
これがどういうことか、わかりますか。
その使用が法律に抵触し逮捕されるようなドラッグも、状況(法律、製薬会社のマーケティング、社会の空気など)の変化次第で、犯罪でも何でもなくなる、ということだ。
沢尻氏が出演しすでに撮影した大河ドラマを、代役を立てて撮り直さないといけない、ということだけど、ナンセンスな話だね。
それよりも、医者として思うのは、上記のグラフに載っていない最強の合法ドラッグ「砂糖」を何とかして欲しい。
そう、薬理的に見れば砂糖はドラッグそのものだ。こんな論文がある。
『砂糖依存のエビデンス〜砂糖の間欠的過剰摂取の神経化学的影響』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17617461
その物質の「摂取量の増加」、やめると「離脱症状」が出て、さらに「渇望と再燃」がある。砂糖はものの見事に、この依存の三大兆候を満たしている。
砂糖の摂取によって、コカインやヘロインをやっているときに活性化するのと同じ部位(側坐核)が活性化する。砂糖は、有害性、依存性ともにヘロイン並みの危険ドラッグだ。
マスコミには、沢尻逮捕とかどうでもいいニュースではなく、こういう砂糖の危険性を伝えて欲しいんだけどね。