院長ブログ

小麦

2019.10.25

体調が悪い人には、「甘いもの、小麦製品、乳製品はいったんやめましょうね」と言うようにしている。
でも、どれだけ本気になるかは本人次第だし、
「甘いものって、精製した白砂糖はダメだとしても、黒砂糖や蜂蜜は多少いいですよね?」とか、
「小麦がダメってことですけど、精製した穀物がダメなんですよね?じゃ、全粒粉のパンはいいですよね?」とか、
「プロテインもダメですか?ホエイプロテインは牛乳から作ってるわけですけど、有害なカゼインは抜いてあるので大丈夫ではないですか?」とか聞かれると、真っ正面から組み合わないで、
「そのあたりは、ご自身の判断に任せます。自分の体ですから、体に聞いてみてください」と何となくボヤかすようにしている。

「甘いものを食べられない人生なんて地獄だ」と思ってる糖質依存症者に完全な甘いもの断ちを強いるのは酷な気もするし、「何十年も朝食にパンを食べ続けてきた」という人にパン一切禁止といえばアイデンティティが揺らいでしまうかもしれない。プロテインで体調が改善した人も実際にいるだろう。

つまり、僕には確かなことなんて、何も言えない。だから、確信を持って何かを強制したりはしない。
ただ、助言するだけ。それを容れるか容れないかは、本人次第だ。
もちろん助言はエビデンスに基づいている。エンピリック(僕の臨床経験)に基づいたものも多少はあるけど、ごく一部だ。

小麦の有害性に関してはエビデンスは無数にある。学術論文をここに引用してもいいのだけど、今回はお固いのはやめて、一般向けの書籍を参考にしよう。
小麦(およびパン)の危険性を告発する本はたくさんあって、ざっとこういうのがある。

なかなか壮観な眺めである。
本のタイトルは内容のエッセンスになっているものだから、少なくともこれだけの著者がパンの危険性を告発しているわけだ。
ただし、刺激的でキャッチーなタイトルをつけて部数を伸ばしたい出版社の意向もあるから、そのあたりは割り引いて見る目も必要だけど。

一番上の本『小麦は食べるな』は翻訳書で、原題は”Wheat Belly”、直訳するなら『小麦腹』という感じだ。アメリカとカナダで130万部以上を売り上げた本だが、この直訳のタイトルでは日本で売れにくいだろう。
この本、実際に読んでみた。

「小麦は世界で最も破壊された食材であり、諸病の源である」というのが著者の最初の言葉であり、結論でもある。
なぜそう言えるのか?
すでに遺伝子組み換えの大豆やコーンが流通して僕らのテーブルに上っていることは多くの人が知っているだろう。しかし、遺伝子組み換え小麦はまだ一般に流通していないのではないか、と思われるかもしれない。
しかし小麦は、20世紀後半に大幅な品種改良が行われた。これは遺伝子組み換えではなく、交配によるものだった。学者の間には、なぜか「交配による品種改良は安全」という神話がある。そのため、動物実験も人体への安全確認の試験も行われることなく、この新種が市場に流通することになった。
この背景には、あの巨大な力が働いている。ロックフェラーだ。

そもそもの事の始まりは1943年、ロックフェラー財団の協力のもと、国際トウモロコシ・コムギ改良センター(IMWIC)が設立されたことである。「今後予想される人口増加による世界的飢餓から人々を救うため」というケチのつけようのない目標を掲げた組織で、品種改良を通じて病気、日照り、高温、除草剤に対する耐性を高め、収穫量を増やす研究が精力的に行われた。

実は収穫量を上げること自体は簡単で、大量の窒素肥料をまけばいい。そうすると、小麦の先端に巨大な種子が実る。この事実は古くから知られていた。しかし、実った種子の重さで茎が折れて収穫に差し支えるし、下手をすれば枯れてしまう。
様々な試行錯誤の末、ついに、茎が短く太い矮小小麦が開発された。
この新種はアメリカはもちろん、中国、インドなど世界中に広まり、今や世界中の生産量の99%以上を占めている。そして、小麦の生産量は1960年代から90年代にかけて、ざっと10倍に増えた。

交配によって生まれた新種が無条件に安全だというのは危険な思い込みだ。新品種の小麦に発現したタンパク質を、二つの親の品種と比較すると、子品種のタンパク質の95%は親と同じだが、5%は二つの親いずれとも異なる、というのが農業遺伝学の示すところである。
特に、グルテンの構造は交配によって大幅に変化する。ある交配実験では、二つの親品種にはない14種類の新しいグルテンが子品種に存在することが示された。さらに、百年前の品種と比べてみると、現代の小麦にはセリアック病に関連するグルテンの遺伝子量が多いこともわかっている。

2日間に渡って著者自身が行った実験が挙げられている。
1kgの全粒ヒトツブコムギ(古代小麦)をひいてパンを作った。現代小麦のように成形しやすくはなく、作りにくいが、パン生地のにおいが非常に芳しく、ピーナッツバターのように濃厚だった。味はずっしりとした木の実のような味で、渋い後味があった。
実験1日目、この自作のパン100gを食べる。食前の血糖値は84 mg/dl。食後の血糖値は110 mg/dl。炭水化物を食べた後の標準的な値である。吐き気、眠気、痛みなどの症状もなかった。
2日目。現代の有機栽培の全粒小麦粉で、同様の手順で作ったパン100gを食べた。食後血糖は167 mg/dlと高く、しかもひどい腹痛と吐き気を生じた。胃のむかつきは36時間続いた。夜は鮮明な夢をいくつも見て、何度も目が覚めた。翌朝は頭が働かず、読むつもりだった研究論文が理解できなかった。同じ段落を4、5回読んでも理解できず、ついにあきらめた。1日半経って、体調はようやく回復した。

この実験結果には深く共感する。僕もパンを食べると、そういう具合にあからさまに調子が悪くなるからだ。ナチュラルハウスっていう、有機栽培の食材をメインに置いた店のパンであっても、調子が悪くなる。「おかしいな、ものはいいはずなのに、なんでだろう」って思ったけど、何度食べても調子が悪くなるものだから、認めざるを得なかった。パンは僕には無理なんだな、と。
これは僕だけじゃなく、多くの人にも言えると思う。
つまり、、、
もう、そもそもの小麦の品種からしてダメになっているわけだから、全粒粉だからオッケーとか有機栽培だからオッケーとか、そういう話ではなくなっている、ということだ。
悲しいけど、それが小麦の現実なんだ。