院長ブログ

筋トレ2

2019.8.23

ジムに置いてあるテレビに、全盛期のシュワルツネッガーを扱ったドキュメンタリーフィルム『パンピング・アイアン』がエンドレスに流れてて、トレーニングの合間にちょっと見たりする。
シュワルツネッガーといえばハリウッド俳優のイメージだけど、まず彼は何よりも、ボディービルダーだった。ミスター・オリンピア(ボディービルの世界最高峰の大会)で6連覇と無敵の強さを誇り、その経歴を引っさげて映画界に進出した。
ドイツ語なまりの妙な英語で、役者としての演技は大根なんだけど^^;、何よりもその肉体に圧倒的な説得力があって一躍映画界のスターになった。

映像を見ながら、彼のバルクのすごさに息を飲む。
どれだけの運動量をどんなふうにこなせばあんな体になれるのか。明確な理論と方法と、そして何より、血のにじむ努力があったに違いない。
僕にとって筋トレはちょっとした趣味であって、食事とか能率とかまったく考えないでやっている。
しかし本気を出して取り組めば、少しでもあんな体に近づけるだろうか?

僕は凝り性だから、もし本格的にボディービルをやるとなれば、徹底的に能率を考える。
本気で能率を考えるのであれば、ステロイドにさえ手を出すかもしれない。
こういう文脈でいう「ステロイド」は、副腎皮質ホルモンではなく、タンパク同化ホルモン(アナボリックステロイド)のことだ。
たとえば、アーノルド・シュワルツネッガーの写真。
全身これ筋肉!という体でしょう?

一方、下はボディービルのある国内大会(ミスター東京)の上位入賞者。

皆さんすごい体だけど、なんというか、シュワルツネッガーの体を一回見てしまうと、ずいぶん見劣りすると思いませんか。
この人たちが、努力の点でシュワルツネッガーにまったく及ばないかというと、全然そんなことない。
ボディービルの東京大会は、競技人口の多さから、一地方大会とは言い難いほどの激戦区で、上位入賞者は実質日本のトップレベルだといって差し支えない。
それなのに、シュワルツネッガーの体には遠く及ばない。
この違いは何なのか。
答えははっきりしている。ステロイドの使用の有無だ。
シュワルツネッガーはステロイドの使用を公言している。一方、この上位入賞者らはおそらくナチュラルだろう。

どんなに食事制限して高重量にこだわったトレーニングをしても、壁に突き当たって伸び悩む。努力だけでは、どうやったって超えられない壁がある。
しかしステロイドは、その壁をやすやすと超えさせてくれる。ナチュラルを貫くのがバカバカしいほど、ものの見事にすばらしい肉体にしてくれる。
しかしその代償は、安くはない。こんな論文がある。
『アスリートにおけるアナボリックステロイドの副作用』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378427405001700
ステロイドは筋肥大、身体能力の向上をもたらすが、それと引き換えに様々な副作用がある。男性では不妊、女性化乳房、女性や子供では男性化が見られる。
その他の副作用としては、内臓障害、高血圧、動脈硬化、血栓、黄疸、肝臓癌、腱損傷、精神障害などがある。

陸上競技は、スポーツ医学やトレーニング法の進歩によって、世界記録がどんどん更新されていくものだ。
しかし、オリンピック女子100メートル、200メートルに関しては絶対的な例外になっている。ソウルオリンピックでジョイナーが世界記録を打ち立てて以後、30年以上経っても誰もこの記録を超えられない。
超えられないどころか、「もうちょっとで世界記録更新できたのに、惜しいな」みたいに肉薄する選手さえいない。
ジョイナー、女性にはありえない体格してたもんなぁ。

ビキニ着て髪の毛長いけど、体だけ見れば男でしょ^^;
トレーニングで作れる体じゃない。
彼女も若くして死んだ。不滅の記録の代償に、健康を犠牲にしたわけだな。

ボディービルダーの不健康さを示す研究は多いんだけど、ボディービルが体に悪いのではない。多くの研究は、ステロイドによる悪影響を指摘している。
ステロイドを使うというのは、悪魔と契約を交わすことだ。「お前に鋼の肉体を与えてやろう。しかしお前の健康寿命をもらう。それでもいいのだな?」
シュワちゃんみたいにスターになってさらに州知事にまでなって今も長生きしてる、となれば割に合う契約かもしれないけど、シュワちゃんは例外と考えるべきで、統計が示す事実はそうではない。

ボディービルダーが不健康な理由として、ステロイド以外に、サプリメントの悪影響を示す論文があった。
BCAA(分枝鎖アミノ酸)のサプリがALSの原因ではないか、という論文。
「強さは必ずしも善ならず〜ボディービル用サプリがALSの原因か」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3049458/
結局、急がば回れで、僕みたいに能率無視で、筋トレ用のサプリとかプロテインとか飲まずに普通にコツコツ鍛えてるのが、案外一番リスクがないんじゃないかな。