明石公園で行われた『タイフェア明石2019』に行ってきた。
タイ料理の屋台や雑貨屋が多く出店してるだけでなく、タイにちなんだ催し物が盛りだくさんのイベントだ。
なかでも目玉は、えび(僕の小学校の同級生で、元プロボクサー)とボクシングをしてダウンを奪えばタイ旅行をゲットできる、というイベントだ。
明石公園のど真ん中、明石城のふもとに、本物のリングが用意されている。
タイフェアの救護係として、また、ボクシングのリングドクターとして、本来なら土曜日勤務のところを休診にして、明石に来たのだ。
後述するようにボクシングが熱戦だったのはもちろんだが、うれしい誤算は、他のイベントも予想外におもしろかったことだ。
いや、より正確には、「催し物を受動的に楽しむのではなく、催し物に能動的に参加する側に回ることになり、結果、ものすごく楽しめた」という感じだ。
まず、会場に到着して早々、運営の人から「タイ・コスプレに参加しませんか?」と誘われた。こういう誘いには、ひとまず乗っかることにしている。二つ返事で引き受けた。
こうして、白衣ではなく、タイの警察服を着て救護テントに詰めるという、思いがけないスタートとなった。
ちゃっかりリングにも上がって、お披露目もしてきた。
「体格とか肌の焼け具合とか、白衣を着る職業には見えない。むしろ、タイ人警察官と言われたほうがしっくり来る」とのお褒めの言葉を頂いた。コップンカー(^人^)
退屈してるんじゃないかと気を遣ってくれたのか、えびが「ミット打ちのイベントに参加しなよ」と声をかけてくれた。
もうどんな誘いにでも乗ってやろうという気持ちだった。
ムエタイのミット打ちのため、今日2度目のリングに。
なんやかんやしてる間に、次第に日が傾き光に赤やオレンジの色合いが混じりだしたころ、本日のメインイベントが始まった。
もうね、無茶な企画なんだ。
4人の猛者が本気でえびを倒しにくる。1人あたり、3ラウンド(1ラウンド2分)を戦う。1人なら何とかなったとしても、それを4人もだよ?体力が持たないって。
「いや、去年は誰も俺からダウンを奪えなかった。今年もいける」
同級生だからわかるんだけど、もう僕らの年齢というのは、体力的には下り坂だ。
日々の健康維持とか体作りを心がけない限り、いや、心がけていたとしても、体力は衰えていく。肉体のピークはとっくに過ぎている。ほんまに大丈夫なん?
「まぁ今年ダウンとられたら、来年はちょっと考えるわ」
試合前、笑いながらそんなことを言っていた。
1人目。
体がでかい。リーチも長い。えびはスーパーフライ級で、階級としては軽いほうだから、両者を並べてみれば階級の差は明らかだ。
実際、苦しい試合になった。リーチの長さを生かして戦う挑戦者に、スピードと手数で勝負するタイプのえびはとてもやりにくそうだった。
かろうじてダウンは免れたものの、3ラウンドを戦って体力の消耗は大きかった。
この1人を抑えればいいんじゃない。あと3人を相手にしないといけないんだ。
さすがのえびも、今度ばかりはダメなんじゃないかと思った。
2人目、3人目。
試合巧者とはこういうことをいうのだろう。えびの上手さが出て、経験の浅い若手相手に、横綱相撲の風格があった。
2人目の挑戦者に対しては、KOすることもできただろうが、えびはそういう勝ち方はしない。「最後まで打ってこい」とばかりにむしろ相手のパンチを受けて、なおかつ、勝ちきる、という試合だった。
3人目に対しても、体格でまさる挑戦者に対して、むしろ相手の得意なボディの打ち合いで応じた。正統なボクシングスタイルで攻めれば、もっと楽に勝てただろうに。
こういうえびの試合展開を、僕はやきもきしながら見ていた。
挑戦者に敬意を表して、相手の全力を受け切って、勝っている。
勝ち方に性格が出ている。紳士そのものだ。しかし、それでは最後まで体力が持たない。
最後の4人目。
この人も元世界ランカーだ。階級はえびと同じだが、最高ランクはえびよりも上だ。
リングそばでスパーリングをしている様子を見た。動きのキレが、これまでの挑戦者と異次元だ。
体力の消耗が激しい今のえびが、果たしてこの人から逃げ切れるだろうか。いよいよKOされるのではないか。僕は、ほとんど胸が痛いような気持ちだった。
とんでもない試合になった。熱戦も熱戦。
双方とも、元世界ランカー。つまり今は現役を引いている。
しかし双方とも、かつては世界チャンピオンを狙う位置にいたし、第一線を退いた今なお、その誇りを失っていない。ハイレベルな2人が繰り広げる駆け引きと、ぶつかり合い。
意地と意地が、リング上で、激しく火花を散らしていた。
解説者が思わず見入ってしまい、言葉が出てこない場面さえあった。
会場全体が、熱狂を秘めた沈黙、といった雰囲気で、リング上の2人を見つめている。
僕は何かしゃべると泣いてしまいそうだったので、横で一緒に見ているごうちゃんに何も話せなかった。途中から「どっちが勝っても負けてもいい、とにかくすばらしい試合だ」という気持ちになって、そういう思いで試合の行方を見守った。
すべての試合が終わった。
誰もえびからダウンを奪えなかった。
つまり、どの挑戦者もタイ旅行をゲットできなかったわけだけど、そんなことはどうでもいい(挑戦者の誰一人として、「タイ旅行に行きたいから」という理由で戦っている人はいない)。
僕は感動した。プレーを通じて人を感動させることができる人のことをプロというのなら、えびはまだまだプロのボクサーだな。
また来年もこの企画をやるのは、僕の心臓に悪いから、もう勘弁してほしいんだけど、きっとまたやるんだろうなぁ^^;