甲子園で高校球児たちが、暑い夏をさらに熱くする戦いを繰り広げている。
スポーツニュースで、「5季連続甲子園出場の3人が中心。智弁和歌山が挑む”負けられない夏”」というのを見た。
甲子園に5季連続出場、というのがどういうことか、わかりますか。
甲子園に出場するには、1年生、2年生の夏、春、3年生の夏と、合計5回のチャンスがあって、この5回全てに出場する。これが、5季連続出場、ということだ。
言うまでもなく、これは非常に難しいことだ。
まず、チームが強くないといけない。甲子園に出場するためには、都道府県代表になることが当然の必要条件だ。
さらに、1年生のときからチームのスタメンでないといけない。野球部員だけどスタンドで応援している、というのではもちろん出場としてカウントされない。
この、5季連続出場を成し遂げたことのある選手は、甲子園の歴史上、これまで9人いる。
その一人は、清原和博だ。
こういう、甲子園の歴代記録がからむ文脈になると、清原の名前がしょっちゅう出てくる。
たとえば高校時代に甲子園で打ったホームランの個人記録(春夏通算)。
1位は清原の13本、2位は桑田真澄の6本(同数で元木大介)、4位は香川伸行の5本、5位が松井秀喜の4本と続く。
13本というのは図抜けている。空前の記録であり、恐らく絶後だろう。
清原和博の『告白』を読んだ。
どんなふうにしてこの天才バッターが育ったのか、少年時代にまでさかのぼって、話が語られる。
子供の頃から体が大きく、すでに小学校の時点で才能の片鱗を見せていたし、地獄のように厳しいPL学園野球部で1年生からレギュラーだった。
そして天才のそばには、常に別の天才がいた。
清原の同級生に桑田がいて、巨人時代には松井がチームメイトだった。
『告白』のなかに、松井をどう見ていたのかの記述がある。
「きついトレーニングをして、パサパサのささみを食べて、いいと思うことは何でもやって。僕は何が欲しくてそれをやったのか。
やっぱり、ファンの声援だったと思う。
今でも覚えているのは2000年、その年も前半戦は下半身のケガでほとんど出れなくて、二軍生活を送っていました。7月7日、代打で復帰したんですが、その時にすごい拍手をもらいました。
高校時代に甲子園でも対戦した中山裕章からホームランを打ったんですが、あのときの割れんばかりの声援は今でも忘れません。巨人に来てよかった、と思いました。
巨人に来てからずっと勝負弱かった僕が、この年から勝負強さを取り戻せたんですけど、それはケガをしている間に考える時間があって、松井敬遠、清原勝負ということに対する気持ちを整理できたからだと思う。
それまでは松井が敬遠されるたびに、自分の感情をコントロールできなくて凡打していましたが、「松井を援護射撃するんだ」という気持ちになれました。
後から考えれば、それまで松井のことをライバルとして意識していましたし、どこかコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。
松井は年々進化していましたし、技術もすごいんですけど、一番の僕との違いはメンタルの強さだったと思います。
いつも同じように球場に来て、同じように球場を去っていく。そういう姿に「こいつすごいな」と思っていました。
たとえば大チャンスに打てなくてチームが負けても、淡々としているんです。
松井とはロッカーが近かったのでわかったんですけど、あいつはホームランを打った日もまるっきり打てなかった日も、同じように淡々と着替えて、同じようにスパイクを磨いて帰っていくんです。感情を見せないんです。
僕なんかはチャンスで打てなかった日は、ベンチからロッカーに戻って、椅子に座ったまま30分は動けませんでした。
松井は悔しくなかったんじゃなくて、感情をうまくコントロールできる人間なんだと思います。僕とは根本的に違うんです。
だから松井は松井。年齢にかかわらず、彼には彼のすごさがあると自分の中で認めたんです。そしたら、それからはあまり意識しなくなったというか、解放されました。
イチローや松井というのは、球場にたとえお客さんが一人もいなくても同じパフォーマンスを出せるタイプの選手だと思います。
僕は逆に、ファンの人たちとの一体感がないと力を発揮できなかった」
18歳の夏、甲子園歴代最多の通算13本塁打目を放ったバットは、栄光の象徴として、甲子園歴史館に飾られていたが、2016年の事件を境に撤去された。
PLの4番、西武の4番、巨人の4番として活躍した天才が、他の天才、桑田や松井をどのような思いで見ていたのか。また、このスラッガーがどんなふうに身を持ち崩していったのか。
過去の栄光、家族、すべてを失った男が、インタビュワーの質問に、心の底から素直に答えているようだ。
マスコミに変に持ち上げられて、「番長」とか囃し立てられて、本人もサービス精神があるものだからそれに乗っかる。それが全国に放送されて、本人の実態と離れた虚像がますます拡散する。本当はものすごく繊細な人なのにね。
この人は、そういうサービス精神ゆえに、自滅してしまったんじゃないかな。
その点桑田は、サービス精神がない、といえば冷たいようだけど、変にマスコミ報道に惑わされず、淡々と自分の仕事をする。成功するべくして成功するタイプだ。
個人的には、ソツのない桑田よりも、清原みたいな破滅型の天才のほうに魅かれるんだよなぁ。