院長ブログ

えび1

2019.8.5

オーソモレキュラー学会で、ある演者(石黒伸先生)がこんなことを言ってた。
「皆さんに自分の子供がいるとして、ひとつだけ何かサプリを飲ませるとなれば、何を飲ませますか。
僕ならこれですね。クリルオイル。BDNFの増殖を促します。つまり、頭のいい子になりますよ」
話の途中で「そういえば」的に出てきた言葉だけど、妙に印象に残った。

石黒先生、講演がうまくて、すごく聞かせる人だった。自然と話に引き込まれたな。
「運営側は『写真撮影はダメ』って言ってますけど、僕のスライドは全然写真撮ってもらってオッケーですから」なんていうのも、太っ腹で男前だと思った。

栄養療法を一通り勉強している人にとっては、ビタミンCとかナイアシンとかのメジャーどころの知識は当然抑えているから、大して新味はない。
しかしクリルオイルという言葉は、僕を含め多くの聴衆にとって初耳だったはずだ。

クリル(krill)というのは、日本語でオキアミのことだ。
そもそもオキアミって知ってますか。
「人のものを持ち逃げしちゃいけないね」それは置き引きです。
「網を置いて魚が来るのを待つ漁法のことだね」それは置き網です。
「私の友人に、沖亜美さんという人がいます」いや知らんよそんなん。
そうではなくて、、、
オキアミというのは一見えびのようだけど厳密にはえびではなく、えびに似たプランクトンの一種で、画像的にはこういうの。

釣りをする人なら当然知っている。
サビキのときにオキアミのブロックを買ってきて、撒き餌に使ったりする。
撒き餌に使うぐらいのものだから、特に希少な生物というわけではない。それどころか、ものすごくありふれたものだ。
養殖魚の餌に含まれていたり、ソーセージや調味料の材料として使われたりする。
krill oilで検索すれば、サプリとして売られているのがわかる。でもこういうのはあえてサプリで摂らなくても、食事として摂取すればいいんじゃないかな。
海で豊富にとれる安価なものなのにサプリだと妙に高額だし、効果も普通に食べたほうが高いと思う。
魚屋で乾燥したオキアミが普通に売ってるから、毎日みそ汁にちょっと入れるようにするとかして、摂取すればいい。

オキアミの効用について論文で検索すると、けっこうたくさんヒットする。
たとえばこんな論文があったよ。
『ラットにクリルオイルのサプリを投与すると認知機能が高まり、抗うつ薬のような作用がある』
https://lipidworld.biomedcentral.com/articles/10.1186/1476-511X-12-6
要約
本研究の目的はクリルオイルがラットの認知機能やうつ病様の行動にどのような影響を与えるか評価することである。
認知機能は光刺激忌避試験(ALSAT)を使って評価した。クリルオイルの抗うつ薬様の効果は、不可避光刺激(UALST)と強制水泳試験(FST)で評価した。
【結果】
7週間クリルオイルを摂取したところ、オス、メスともに、訓練の初日からALSATで活動レバー、非活動レバーを見分けるのが有意に上手だった。
クリルオイル投与群、イミプラミン(抗うつ薬)投与群の両方では、UALSTに対して、抵抗をあきらめたり抑うつになったりしなかった。
同様に、FSTでは、クリルオイル群、イミプラミン投与群の両方で、コントロール群に比べて無活動時間が有意に短かった。
これらのデータは、クリルオイルには認知機能を高めたり、抗うつ薬様の効果があることを示している。
さらに、前頭前皮質および海馬において、シナプスの可塑性に関連する遺伝子の発現の変化も調べたところ、クリルオイルを7週間投与したメスラットの海馬では脳由来神経因子(BDNF)の発現に影響するmRNAが特異的にアップレギュレーションされており(p=0.04)、同様の傾向はオスラットでも見られた(p=0.08)。
オスラットではArc mRNA(シナプスの長期的可塑性のカギとなるタンパク質)の前頭前皮質での発現量も増加していた。
イミプラミンはBDNFやArcを含む可塑性に関連したいくつかの遺伝子に明らかに影響を与えていた。
【結論】
これらの結果は、クリルオイルに含まれる活性因子(EPA、DHA、アスタキサンチン)が学習プロセスを高め、抗うつ薬様の作用を発揮することを示している。
また、クリルオイルに含まれるこれらの因子は、イミプラミンとは別の生理的機序で働いていることが示唆される。

オキアミは、一般的なえびよりも赤みが強い。これは、オキアミが大量のアスタキサンチンを含むためだ。
このアスタキサンチンは、オキアミが産生するわけではない。アスタキサンチンを産生する藻類をオキアミが食べ、その藻類中のアスタキサンチンが食物連鎖でオキアミの体内に蓄積する、という流れだ。
アスタキサンチンは美容はもちろん、上記の研究のように神経系にも好ましい作用がある。
ただし、即効性は期待しちゃいけないよ。
上記の研究を見ればわかるだろうけど、7週間もクリルオイルを摂取させている。ラットにとっての7週間は人間でいうともっと長い期間になるだろうし、どれだけの量のクリルオイルを摂取させたのかわからないけど、人間で換算すればべらぼうな量に違いない。相当長期間大量に食わせて、やっとこさ有意差が出た、っていう格好の研究だと思う。
うつ病を治すためとか、頭をよくするためとか、過大な期待はせずに、毎日の習慣としてちょっとずつ食べる、ぐらいの感覚で続けるといいんじゃないかな。