院長ブログ

MSG

2019.7.19

『グルタミン酸ナトリウム(MSG)の神経系に対する影響』という論文(1954年)がある。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjm1952/3/4/3_4_183/_article/-char/ja/
抄録を訳してみよう。
(1)イヌ、サル、ヒトの運動野の灰白質に高濃度のグルタミン酸ナトリウム(アスパラギン酸ナトリウムでも同様)を作用させると、潜伏期のごく短い間代性けいれんが起きる。
(2)イヌの循環器系に少量のグルタミン酸をいれると、投与から20分間、条件反射(唾液分泌)を促進し、その効果は数時間続く。
(3)グルタミン酸ナトリウム(MSG)に関する上記の二つの効果は、MSGが高等動物の中枢神経系に対して直接的な生理作用を有していることによるものと考えられる。

この論文は、グルタミン酸というごくシンプルな形をした単なるアミノ酸が、大脳皮質に対して強い興奮作用を持つことを初めて示したもので、当時なかなか画期的だった。
その後の研究で、グルタミン酸は学習・記憶に重要な働きをしていることが示された。学習した新たな記憶が側頭葉で長期記憶に移行する際に、神経伝達物質としてグルタミン酸が不可欠だということがわかったのだ。
この論文の著者は、こうした知見を踏まえて「グルタミン酸ナトリウムを摂れば、頭が良くなる」と唱えた。
味の素社にとって、これほどありがたい学説はない。そこらへんの三文学者が言っているのではない。天下の慶應大学医学部の教授が、緻密な研究に基づいて主張しているのだから、自社製品を売り込むのにこれほど心強い援軍はない。
同教授はテレビ出演や全国での講演に引っ張りだこになった。
受験戦争が加熱し始めた頃のことである。子供のご飯の上にふりかけ代わりに味の素をかけて食べさせることが、教育熱心な親の間で一大ブームとなった。幼稚園の園児に味の素を食べさせ知能指数の変化を測定する研究さえ行われた。

もちろん無意味である。
味の素ふりかけのおかげで成績が上がった子供はいないし、IQが上がった園児もいない。
無意味どころか、当初の研究論文を素直に読めば、MSGは興奮毒そのものである。唾液分泌を促進させ食欲を増進させる作用はあっても、動物にけいれんを起こさせる。しかしこの興奮毒性はなぜか「神経の働きを高めてくれる」と好意的に解釈され、味の素の普及を後押しする宣伝に使われた。

1957年眼科医のルカとニューハウスは、幼いマウス(授乳中)と成人マウスにグルタミン酸やアスパラギン酸がどのような眼疾患を引き起こすかを調べた。
MSGを投与したマウスを解剖すると、網膜全体の神経細胞が損傷されていた。最もひどいダメージが見られたのは幼いマウスだったが、成人マウスにも重大な損傷が見られた。グルタミン酸ほどではないが、アスパラギン酸の投与でも同様の損傷が認められた。(アスパラギン酸は、人工甘味料のアスパルテームに含まれている。)

この発見は医学界からも食品業界からも完全に無視された。
当時すでにベビーフードには大量のMSGが添加されていた。
MSGを添加するだけで、まずい粗悪な食品がすばらしく美味しいごちそうに早変わりするのだから、食品業界にとってはMSGはなくてはならない存在になっていた。
ルカらの論文から10年後、この論文の重要性に気付いたのが、ジョン・オルニー博士である。
1968年オルニー博士はルカらの実験を再現し、同様の結果を確認した。しかしこの追試にあたって、彼は新たな事実も発見した。MSGによって損傷されるのは網膜だけでなく、脳室と隣接する視床下部など脳室周囲器官の神経細胞が全体的に破壊されていることに気付いたのだった。
脳室周囲には血液脳関門(BBB)がないため、MSGの毒性を強く受けるのかもしれない、と彼は考えた。

彼の仮説はその他の動物を使った実験で何度も確認されたが、この重大な発見に注意を向ける人はほとんどいなかった。
食品業界はベビーフードにMSGを添加し続け、母親たちは我が子がそのベビーフードを食べるのを見て喜んでいるのだった。
視床下部は指先ほどのごく小さな器官であるが、人間の恒常性の維持に果たす役割は極めて大きい。成長、性行動、内分泌、食欲、睡眠覚醒サイクルだけでなく、意識そのものにも影響を与えている。
オルニー博士は、別段高用量のMSGを実験動物に投与したわけではない。人間が食べるのと同等割合の量を投与し、そして視床下部に重大なダメージが生じることを確認したのだ。そして、幼いときに視床下部がMSGで損傷された動物では、低身長、肥満、生殖系異常が起こることを確認した。
後の研究では、MSGによって性ホルモン(特に黄体ホルモン)の過剰分泌が促され、思春期早発症を引き起こすことがわかった。性ホルモン系、内分泌系の異常は、すぐには現れず、ある程度成長してから現れる。

味の素が無害だというのであれば、原材料のところに堂々と『味の素』と書けばいい。なぜ『調味料(アミノ酸等)』などとボカしたようなあいまいな表現を使うのか。
会社は当然気付いている。自社製品なんだから、強みも弱みも充分把握している。
消費者がそれを知って食べる分には問題ない。「まずい飯を食うぐらいなら、味の素入りのうまい飯を食って早死にする方がマシ。健康のために味気ない飯を食い続ける人生に何の意味がある?」という人も一定数いるはずだから、そういう人は好きにすればいい。
問題なのは、この添加物の有害性が周知されていないところにある。
我が子が喜ぶ顔見たさに、手料理に味の素を入れまくるお母さんも世の中にはいると思う。
それは多くの場合、時限爆弾だ。よほどの大量使用ならともかく、一般的な使用量では毒性はすぐには出ない。
しかし子供がある程度成長し、内分泌系や神経系の病気を発症してからでは、もう遅い。子供に興奮毒を食べさせ続けたのはお母さんだから、その病気はお母さんのせいなんだけど、子供がおいしそうに食べる顔が見たい親心がアダになるなんて、こんなデタラメが起こってはいけない。味の素の毒性は、義務教育でしっかり教えるべきだと思う。

「危険性を示すデータは充分にあって、良心的な研究者が警告を発するが、政府はまったく規制に乗り出そうとしない」という構造は、電子レンジによる健康リスクとほとんど相似形をなしているようだ。
現代社会は毒にあふれている。
悲しいことだけど、「国が認めてるものなんだから、大丈夫だろう」という性善説では自分や家族の健康を守れなくなっている。いつの間にか、国民の健康よりも企業の利益が優先されるようになったんだな。
無知による悲劇を防ぐには、知識を仕入れて自分を守るしかない。

参考
“Excitotoxins”(Russel Blaylock著)