院長ブログ

製薬会社

2019.6.14

サバンナの動物を取り上げたテレビ番組で、捕食の場面をライオンの立場で見るのかガゼルの立場で見るのかで、視聴者の印象はまったく違うものになる。
何日も食べ物にありつけず、段々やせ細ってきたライオンの姿をカメラが追う。ようやく狩りに成功し、ガゼルを一匹仕留めた。飢えに苦しんでいた子ライオンたちも大喜びで肉にかじりついている。久々に飯が食えてよかったなぁ、とテレビを見る視聴者は安堵する。
しかし同じ場面をガゼル目線で描けば、ライオンは恐ろしい殺戮者になる。ライオンに追いかけられる場面を、「何とか逃げ切れ!」なんて思いながら見ていたりする。

相手の立場になってみて、気持ちを推しはかる。
人間関係において重要なことだと、道徳の授業が教えている。
この教えにならって、今回のブログは製薬会社の気持ちになって書いてみよう。

投薬一辺倒の西洋医学に嫌気がさして、本当に患者を救いたいと思って栄養療法をやり始めたときには、僕は徹底したアンチ製薬会社だった。勤務先の病院で、医局の前でMRからペコペコ頭を下げられるのが心底うっとうしかった。(医局の前どころか、医局の僕の机の前にまで来て「お話聞いてもらえませんか」なんてしつこいのがいて、あれには参ったわ)
開業して自分のやりたいスタンスで医療を提供できるようになって、ある程度冷静に、客観的に製薬会社を見れるようになったと思う。今でも基本的には好きじゃないけどね。

新薬の開発、というのは製薬会社にとってはけっこう大きなバクチなんだ。
何らかの物質が発見されたり開発されたりして、将来的に新薬の成分として有望だと見れば、すぐさま特許を申請する。
特許が認められたとして、その期間は20年だ。その20年間、他の製薬会社はその物質に手出しすることはできない。だから何とか、その期間内に売りまくって儲けを出したい。
しかし薬を新たに売り出すというのは、決して簡単なことじゃない。
ネズミや犬などの動物実験で有効性を確認し、人を相手に臨床治験を行なって有効性を確認し、さらに毒性の有無も確認する。成人に異常がなくとも、妊婦では胎児に催奇形性があるかもしれない。このあたりは直接人で確認できないが、動物実験でチェックする。
こういう問題をひとまずクリアしないといけない。
仮にクリアしたとしても、あくまで治験の期間中は大きな問題がなかったというだけのこと。いざ市場に流通したら想定外の副作用が報告されるは当然あり得るし、実際、ある。数年間とか、長期間にわたる投与は製薬会社のほうでもやっていないのだから、新薬の投与には人体実験的要素が付きまとうことは避けられない。

ともかく、新薬の成分の特許取得から、それが市場に出るまでに、平均7年かかる。
20年の特許が切れるまで、残りは13年。この間にどれだけたくさん売ることができるか、そこが製薬会社の勝負どころだ。
全国の大学病院、総合病院にMRを派遣して、薬の説明会をバンバンやる。末端のMRたちは、上司から散々ハッパをかけられている。一人でも多くの医者にその薬を使ってもらおうと、ペコペコと頭を下げまくる。
何しろ開発には、平均600億円の費用がかかっているのだから、何が何でも、元はとらないといけない。

妙に薬価が高い薬がある。
処方薬としての許可がおりるまでに、たとえば10年もかかってしまったとなれば、製薬会社はますます必死になる。その必死さが、薬価に反映されるわけだ。
誤解しちゃいけないよ。「高い薬」は、「効く薬」というわけではない。
「製薬会社が必死に売りたい薬」だという、ただそれだけの意味しかないんだよ。

製薬会社側のこんな事情を知れば、しつこいMRを見ても、「この人も大変なんやな」と優しい気持ちになれます^^;

さらに踏み込んで考えよう。
こういう製薬会社が売る薬って、どんな薬だと思いますか?
たとえば抗癌剤。「癌が治る薬」だと思いますか?
たとえば降圧薬。「高血圧が治る薬」だと思いますか?
たとえばコレステロール降下薬。「高脂血症が治る薬」だと思いますか?
とんでもない。
数回飲んだだけで本当に治ってしまって、「病気から解放されたよ、ありがとう」なんて具合に、薬からおさらばしてもらっちゃ困るんだ。開発にいくらかかったと思ってる?600億だぞ。
一度掴んだ客は、絶対に逃しちゃいけない。一生顧客として引っ張らないといけない。
治る薬?
はっきりいうが、そんなものは存在しない(少なくとも製薬会社のラインナップには)。
あるのは、症状を抑える薬だけだ。

ライナス・ポーリングがビタミンCの各種疾患(癌、風邪など)に対する有効性を示したとき、医学界の反発はすさまじかった。
「かつての秀才も今やすっかり耄碌して、ビタミンが癌に効くなどと言い出した。晩節を汚す様を見るのは実に痛ましい」
「ノーベル賞を2回とった科学者も、年をとればこの通り。狂人のたわごとにまどわされて、受けるべき治療を受けずに、ビタミンなどに頼っては、助かるはずの命も助からない」
ポーリングがビタミンCの有効性を示す論文を学術誌に提出しても、不可解な理由をつけて却下される。
医学界は、本気を出してこの学者の口を封じようとした。
なぜそこまで必死になったのか。
医学界の背後には、当然製薬会社が控えている。
製薬会社があらゆる手を使って、ビタミンの有効性に難癖をつけてきた。
栄養療法は、彼らにとってそれくらい不都合な存在だったからだ。

ビタミンは自然のものだから、特許がとれない。
特許がとれないものでは、商売できない。それどころか、ビタミンで治癒してしまっては、自社の薬が売れなくなり、大打撃を被ることになる。
どうしてもビタミンの有効性を隠しきれない、となれば、巧みな製薬会社は、ビタミンの分子に多少の修飾を加えて特許をとって、自社の薬に取り込んでしまうんだな。
たとえば、骨粗鬆症治療薬のアルファカルシドールは、ほぼビタミンD3だし、ラネル酸ストロンチウム(日本では未発売)は、ほぼクエン酸ストロンチウムだ。慢性肝炎治療薬のプロパゲルマニウムは、ほぼ有機ゲルマニウムだ。こんな例はいくつもある。「ほぼ」というところがポイントで、特許をとるために無理やり分子構造を変えているので、ほとんどの場合、オリジナルの劣化コピーになっている。
たとえば、ラネル酸ストロンチウムには血栓塞栓の副作用があるが、クエン酸ストロンチウムにはそういう副作用はない。
降圧薬とかコレステロール降下薬とか、救いようのない薬に比べれば、こういう劣化コピーみたいな薬を飲んでるのは、まだしもマシだと思う。
でも同じ飲むのなら、結局ビタミン飲んだほうが話が早いよね。安上がりで、しかも効果も高いし。

相手の立場になってみることで、結局、やっぱり、ビタミンが正解、ということになりました^^