院長ブログ

抗肥満薬とビタミンC

2019.4.5

毎日筋トレをしているけど、ステロイドを使おうなんて全然思わない。
でも筋トレをしているアメリカ人で、ナチュラルにこだわる人はむしろ少数派だ。
彼ら、簡単にストロイドに手を出す。「そのほうが能率がいいじゃないか」と。確かにそれはそうなんだけどね。
アメリカ人って、すごく頭のいい知的エリートもいれば、即物的でテキトーな人もいて、両極端な印象だ。移民とその子孫の国だから、本当、あの国は十人十色だな。
「テキトー派」は、簡単に薬を使う。気分が低ければ抗うつ薬や抗不安薬を使うし、眠れなければ睡眠薬を使う。こういう人たちが製薬会社の売り上げを支える上得意になっている。
知的に低いせいか、あるいは単純に副作用に無知なのか。
あるいは、国民性によるものか。善かれ悪しかれ、プラグマティズムが思考の根っこにあって、そのせいで薬に抵抗感がないのかもしれない。

たとえば、肥満を薬で治そう、っていう発想がすごい。
これは日本からはなかなか出ないアイデアだろう。生活習慣(食事、運動)を改善すれば治るし、それしかないって思ってるから。
日本で使える抗肥満薬としては、マジンドールとセチリスタットがある。
いつも思うんだけど、マジンドールってすごい名前だな^^;
ノバルティスの作った薬だけど、副作用(依存性、肺高血圧など)のために本家の欧米では販売中止になっていて、先進国で堂々と承認されてるのは日本くらい。
セチリスタットは日本で販売されてるけど保険収載されていない。買うなら自費、ということだ。オルリスタットという同じような薬があって、欧米ではこれが販売されている。
抗肥満薬の開発は1970年代に始まって、いろんな薬が現れては副作用のために消えていった。
たとえば、かつてフェンフルラミンという薬があった。食欲を見事に抑えてくれるということで、アメリカで一大ブームとなった。1973年に承認されてから20年以上にわたって、何百万人ものアメリカ人がこの薬を使った。しかし、肺高血圧や心臓弁の異常を引き起こすことが分かり、1997年に販売中止になった。
「危険な薬が市場から撤廃された。よかったよかった」で話は終わらない。
2002年にはフェンフルラミンを含むダイエット用健康食品で死亡事故が起こった。
フェンフルラミンと甲状腺ホルモンが入っていたという。フェンフルラミンで食欲を抑え甲状腺ホルモンで代謝をアップさせるという合わせ技を狙った商品で、確かにやせ薬としては効きそうだ。でも、やせるよりも先に死んじゃったら悲しいよね^^;
フェンフルラミンは、正規の販売ルートが閉ざされた今でも、「健康リスクをとってでも、何としてもやせたい」という人から根強い需要があって、ネット上でこっそりやりとりされていたりする。

『食欲低下薬とビタミンC:モルモットの食欲と脳中アスコルビン酸の役割』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7319724
要約
モルモットに食欲低下薬(フェンフルラミン、マジンドール、ジエチルプロピオン)を毎日投与する。その際、ビタミンCのサプリと一緒に投与する場合としない場合で、食欲や脳中アスコルビン酸濃度にどのような影響が見られるかを調べた。24日間の実験で、その期間中モルモットに与えるエサはビタミンCを含まないものである。
モルモットは壊血病を発症し、食欲低下薬の投与で食事摂取量が減少した。ただし、フェンフルラミン投与群やマジンドール投与群ではジエチルプロピオン投与群ほどの大きな減少は見られなかった。ビタミンCサプリの同時投与によって、これらの薬の食欲低下作用が有意に抑制された。
壊血病をきたしたモルモットの脳中アスコルビン酸濃度は、フェンフルラミン投与によって有意に減少した。しかしマジンドールやジエチルプロピオンの投与は、そのような減少を起こさなかった。
ビタミンCを投与すれば脳中アスコルビン酸濃度が上昇するのが普通だが、3種類いずれの食欲低下薬の投与によっても、この上昇が阻害された。
ジエチルプロピオンおよびマジンドールによって引き起こされる拒食状態において、脳中のアスコルビン酸濃度が代謝の調整に関与していると考えられるが、フェンフルラミンの投与ではそうではないと思われる。

「肥満は万病のもとだから、抗肥満薬を飲んででも肥満を解消すべし」というのが、抗肥満薬を処方する大義名分なんだけど、上記の実験によると、抗肥満薬とビタミンCの相性は悪いようだ。ビタミンCを飲んでいると薬の食欲低下作用が減少したということだから、抗肥満薬を飲んでる意味がなくなってしまう。
この結論を素直に読めば、「だから抗肥満薬を飲む人は、薬の効きをよくするため、ビタミンCの摂取を極力控えましょう」ということになりかねない。でも直感的には、こんな結論、間違っている。
抗肥満薬の服用によって脳内のビタミンC濃度の上昇が抑制された、というのも恐ろしい。脳内のビタミンC濃度は、血中ビタミンC濃度の10倍高い。脳はそれだけ大量のビタミンCを必要とするということだ。
そして脳内にビタミンCを取り込むのは、グルコース・トランスポーターだということがわかっている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9389750
ビタミンC、グルコース、食欲。
三者の間に相互作用があるに違いないのに、食欲低下だけをターゲットにしぼって投薬治療を行っては、そのバランスが崩れてしまう。このあたりが対症療法の限界ということだろう。