院長ブログ

口内炎

2019.2.21

口内炎はうっとうしい。耐え難いほどきつい、というほどでもないけど、食べるときや話すときに痛んで、何とも言えず不愉快だ。
なぜこんなやっかいなデキモノができるのか?
実は口内炎の発症メカニズムは、ほとんど解明されていない。
意外ではないですか?
病気とも呼べないような、健康な人にもたまにできるくらい非常にcommonな症状なのに、どんなふうにできるか、わかっていないなんて。

ただ、まったく何一つわかっていない、というわけでもない。
原因を見つけようとして複数の疫学研究が行われた。感染症ではないか、キスなどの性行為でうつるのではないか。いろいろな可能性が検討されたけど、結局どれも立証できなかった。
単一のこれという原因ではなく、免疫や栄養など複数の因子が重なって発症するのではないか。今のところこのあたりの結論に落ち着いている。
口内炎というのは口腔内の粘膜破壊であり、これは免疫の観点からみれば、T細胞が関与している。インターロイキンやTNFα(腫瘍壊死因子α)が分泌され、肥満細胞やマクロファージもずいぶん暴れている。
生じて間もない口内炎を生検すると、組織には激しい炎症があり、T細胞の浸潤が見られる。また、口内炎のある人では、血中にHSP(ヒートショックタンパク質)と反応するリンパ球があり、CD4/CD8比が減少している。SLEのような自己免疫疾患や炎症性腸疾患の患者では口内炎ができやすいことがわかっているが、口内炎を起こす特異的な抗体は見つかっていない。
口内炎の発生にT細胞が関与していることは間違いない。しかし何がT細胞の興奮を引き起こすのか、わかっていない。
疫学的には、比較的若年者で発症率が高く、高齢になるにつれなりにくくなる。
治療法は特にない。放っておけば勝手に治る。
なぜ生じるのかよくわからないのと同様、なぜ治るのかもよくわからない。

ビタミン欠乏など栄養状態のアンバランスが関与しているのではないか、と長らく言われていたが、これを否定する研究もある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3880249/
口内炎の既往のある人を2群に分け、一方にマルチビタミンのサプリを、もう一方にプラセボを投与し一年間追跡する二重盲検RCTを行なったところ、有意差が出なかった。
つまり、サプリをとってようがいまいが、口内炎ができるときはできるし、できないときはできないという、何とも色気のない結論が出てしまった。

わからないことばっかり。
もうちょっと、確かなことが言えないものか。
普通の医者が聞けば眉をしかめるような話ではあるが、実は一つ、統計的に確かに言えることがある。
なんと、喫煙者では口内炎の発生率が低いのだ。
タバコをあらゆる病気の『諸悪の根源』としたい医者には、何とも不都合な事実に違いない。
禁煙すると口内炎ができる、というのは喫煙者の間では比較的よく知られた話ではあったが、禁煙と同時に始める禁煙補助薬の副作用ではないかと言われてきた。
しかしこの推測は研究で否定された。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15370162

喫煙者で口内炎の発生率が低いという観察は昔からあった。
そこから、タバコには口腔内に限らず、消化管粘膜全般の潰瘍を抑制する作用があるのではないか、とも予想されていた。
口腔は消化管の入り口であり、そこに口内炎ができるということは、他の消化管粘膜にも同様の炎症が起きているのではないか、というのは当然の類推であり、逆に、喫煙により口内炎ができにくいということは、その他の消化管の炎症をも抑制するのではないか、というのも自然な予想である。
この予想は、疫学研究(喫煙者では潰瘍性大腸炎の発生率が低い)の結果が出たことで、実証される形になった。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2014383/

60年近く前の古い論文を紹介しよう。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1578433/?page=1
口内炎は口腔粘膜や舌にできる病変で自然治癒するが、しばしば再発し、ときには難治性である。患者は苦痛を感じ、医師も治療に難渋する。
再発性口内炎の原因ははっきりしない。ウィルス感染、食物アレルギー、ホルモン(月経に伴い悪化する)、弱い有機酸による外傷など、いくつかの可能性が言われているが、どれが単一の原因かという証明は未だなされていない。抗生剤(局所あるいは全身投与)、ステロイド、天然痘ワクチンなど、様々な治療法が試されてきたが、広い有効性を証明する報告は皆無である。
こうした状況下、困惑するような観察ではあるが、口内炎の原因および治療に一筋の光明となるかもしれない報告がある。以下の4つの症例報告につき、患者らは喫煙によって口内炎の劇的な改善を見たのである。
タバコによる口内炎の治癒は、2症例においては全く偶然に見出され、その他2症例においてはこの観察に基づいて意図的に喫煙を勧めることで見出されたものである。
症例1
58歳男性。18年間吸ってきたタバコをやめたその1週間以内に多発性の口内炎を生じた。痛みを伴う大きな病変が複数(10箇所や12箇所も)生じ、食べたり話したりするのにさえ支障を来した。2週間ほどで病勢は衰え、3、4日ほど比較的楽になるのだが、その後また病勢がぶり返す。そういうサイクルの繰り返しだった。病勢がぶり返すまではせいぜい月に1個、小さい単発性の病変があるだけだった。
数ヶ月後、ひどい病変が再発したとき、患者は喫煙を再開した。すると、24時間以内に痛みが軽快し、3日以内に口内炎が消失した。その後、タバコを吸っている限り、小さい単発性の病変が1個できるだけだった。
また何度か禁煙をしたが、そのたびに数日以内にひどい口内炎ができ、タバコを再開するとまた治る。その繰り返しだった。彼は言う。「タバコの銘柄は関係ないようです。ヘビースモーカーなので、最低何本吸えば症状が治まるかはわかりません」
患者にアレルギーの既往はない。問診によって口内炎の増悪因子を見出すことはできなかった。
症例2
53歳男性。複数個の大きな癒合性の潰瘍が舌および口腔内前方に生じた。これらの病変は1954年に禁煙して、その2週間後に生じたのである。痛みのために食事や会話に困難をきたすほどだった。
1956年8月、患者がタバコを再開したところ、2、3日以内に潰瘍は消失した。その後、時々小さな単発性の潰瘍を生じることはあったが、2、3日で消えた。以来、彼は禁煙することはなかった。
彼はフィルター付きのタバコを吸っていた。「銘柄は絶対関係ないです。デキモノを抑えるために最低何本吸えばいいか?それはわかりません」
彼にアレルギーの症状はなく、また、ひどい口内炎に悩んでいた2年間、増悪因子は特になかった。
(以下略)

長いのでこの辺にしておこう。
ただひとつ言い添えておくと、症例3、症例4の口内炎患者は、タバコを1日4、5本吸うことで病変の発生を抑えることができた。一箱とか、大量に吸う必要はない。潰瘍性大腸炎もこれぐらいの本数で抑えられると思う。
以前のブログに書いたけど、植物としてのタバコ(ナス科タバコ属)には、現代医学がいうような毒性(発癌性、依存性など)はない。ネイティブアメリカンのなかには、タバコ葉の煮汁を飲む部族がいたぐらいだ。
タバコが有害なのは、タバコそれ自身よりもそれに加えられる添加物だ。タバコ葉自体には、むしろ人間に好ましい薬理作用さえある。上記の論文が示唆するように、添加物満載の現代のタバコさえ、口内炎を抑えるメリットがある。
「だから口内炎の人はタバコを吸いましょう」と言っているわけではないよ。さすがに今の添加物過多のタバコは、トータルで見ればデメリットのほうが多いと思う。
ただ、個人的には近年の行き過ぎたタバコ狩りにはすごく違和感がある。
自分の判断で、人に迷惑かけないように好きで吸ってるだけなんだから、自由に吸わせてあげたらいいじゃないの。