松下幸之助が現役バリバリの社長として辣腕をふるっていた頃、パナソニック入社希望者の最終面接で、彼が最後に必ず聞く質問があった。
「あなたは自分が運のいいほうだと思いますか。運のないほうだと思いますか」
みなさんならどう答えますか。
妙な謙遜から、「いや、頑張ってはいるのですが、正直ついてないほうだと思います」なんて答えようものなら、幸之助、その志望者を遠慮なく落とした。
本来最終面接というのはそこまで行った時点で9割方採用が決まっている。
社長への顔見せ、ご挨拶という儀式的意味合いが強いのだが、この『幸之助の質問』、肝を冷やす思いで聞いているのは採用人事の担当者である。
理系の優秀な若手技術者を引っ張ってきても、答えよう次第では本当に不採用になるのだ。
「この志望者、偏屈な性格だからやばいな」という人には、こっそり事前のレクチャーがあったとか笑
「自分は運がない」と答えた人を、なぜ落とすのか。
「日本に生まれ、親に育ててもらって、義務教育ばかりか大学まで行かせてもらっている。
自分がどれだけ恵まれているか、その幸運に気付くことも感謝することもできない。そんな傲慢な人間は、うちには要らない」
そういうことだと思っていたんだけど、ちょっと違うらしいんだ。
僕のいとこの一人がパナソニックに勤めてるんだけど、彼いわく、
「うーん、自分が運のいいことに気付き感謝する、っていう、そういう倫理的な意味合いとはちょっと違うんだな。
ささやかなことにも幸せを感じることができる、いわば「たるを知る人」を社員として欲しいわけじゃない。
幸之助が欲しいのは、誰が何と言おうとどんな状況だろうと「自分は強運なんだ」と信じられる人。こういう人こそ、パナソニックにふさわしいと考えた。
だって考えてもみなよ。
パナソニックには『幸之助の質問』をくぐり抜けて入社した人しかいない。つまり、自分の強運を信じる人の集団なわけだから、強運な会社になるに決まっている。
幸之助は何よりもまず、経営者であり、強い会社を作りたかった。『幸之助の質問』はその思いを実現する人材を選り分けるための質問なんだな」
なるほど。
ただ、感謝っていう要素も必要なんじゃないの?
自分の置かれた状況に感謝し、強運であることを喜ぶ。現状の肯定と同時に、さらなる飛躍への努力を重ねる。
そうやって自分の強運を信じて戦い続ける人にこそ、幸運の女神はほほえむ、ということだろう。
ここには人生の知恵があると思う。
しかし、これは怠惰な人にはちょっとした危険思想でもあるだろう。
「自分が運がいいと信じていれば、本当に運がよくなるんだ」と短絡的に考えて、当たる当たると信じながら宝くじ何枚買ったって、永遠に当たらないだろう笑
感謝すること、努力すること、信じること。
この三つの歯車がかみ合えば、人生はだいたいうまく行くような気がするな。
いや、別に僕の人生が成功している、とは言わないよ。まだまだ人生の道半ばで、日々何かしら戦っているような感じだ。
「根拠なんてなくていい。とにかく自分が強運なんだと信じるんだ」
僕はわりと理屈で考えるほうだから、こういう思い込みって、なかなか持てない。
パナソニックの採用試験を受けて、いきなり『幸之助の質問』に出くわしたら、多分、答え方をミスって不採用だと思う笑