院長ブログ

整形

2018.8.25

飲み屋でたまたま同業者と知り合って、その人、とあるプロ競技のスポーツドクターだった。外国で国際大会があるたびに日本代表チームに一緒に同行して遠征する。
自分の整形外科クリニックを開業してるんだけど、遠征のときにはクリニックを留守にせざるを得ないから、代診をたてるという。
「また今度、僕が留守するときに、代診のバイトしない?」
「ええ、機会があればお願いします」
言葉の上だけのことだろうと思って軽く受けておいたら、先生、後日メールをくれて、本当に仕事を回してくれた。
内科・精神科が本職の僕が、整形外科を診るという恐ろしい状況になったわけ笑
筋肉の起始、停止とか関節の名前、整形外科の病気とか、学生時代の知識で止まってる。というか、正直、そういう知識もほとんど忘れてる。
先生、さすがに復習しとかないとまずいですよね。
「いや、大丈夫。理学療法士やレントゲン技師がしっかりしているから、基本的には彼らに任せておけばいい。カルテの操作とかでわからないことがあれば事務員に聞けばいい。
君の仕事は、患者の話に耳を傾け、共感することだ。普段精神科医としてやっていることをやってくれればいい。実務的なことは他の職員がやるから」

確かにその通りだった。リハビリの患者がほとんどで、門外漢の僕が重大なジャッジを下さないといけないなんてことはなかった。
ただ、ちょっとした判断を求められることはあった。
右手関節の痛みを主訴に来院した13才女児。テニス部所属。
聞けば、先週までテニス部の合宿で、きつい練習をこなしていたという。
どのように対処すべきか。
レントゲン撮影をし、疲労骨折などの有無を確認。骨折の際には固定し、NSAIDsの処方および安静の指示。
みたいなのが標準的な流れかもしれないけど、こういうのってやりすぎだと思う。
若い女児で被曝のリスクもあるんだから、不必要にレントゲン撮ることなんてない。
直感的には、ハードワークによる手関節への過負荷だということは明らかだから、こんなの、休めとけば勝手に治る。
「痛み止め、いる?」
と聞いてみた。その際、薬のメリット、デメリットについて合わせて説明する。
なぜ薬を飲んで痛みが止まるのかって、考えたことあるかな。痛みというのは体からの大事なサインで、「そこに炎症があるよ」ということなんだ。炎症があることで、血流が多くなって、体は頑張ってその部分を修復しようとする。薬を使えば、痛みは確かに楽になるよ。でもそれは組織の修復プロセスを阻害することでもあるから、治りは遅くなるよ。
どうしても痛いのなら我慢する必要はない。痛みは強いストレスでもあるから、耐え難いほどなら、薬の恩恵にあずかればいい。でも「ちょっと痛いな」程度なら、あえて薬は飲まないほうがいいと思うよ。どうする?
いりません、このまま様子を見ます、ということだったので、特に薬の処方は行わず、最低2週間の安静を指示した。

東洋医学の言葉だろうか、出典は知らないけど『症状即治療』には説得力を感じている。本当にこの通りだと思う。人間の体調不良というのは、基本的には放っておけば治るんだ。
食の不摂生とか、この症例で言えば右手関節の過負荷とか、何かしら明らかな原因があるのなら、それを取り除くことが優先だけど、原因を除去すれば、あとは勝手に治る。
西洋医学というものは、人間の自然治癒力を全く前提にしていない。「痛みがある?それはいけない。それ、鎮痛薬だ」と、すぐ薬の投与に走る。
NSAIDsにどれだけ副作用が多いことか(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24393558)、プロスタグランジンの産生を抑えることが全身にどれほどの影響を及ぼすことか、そのあたりを知れば安易な投薬は躊躇するはずなんだけどね。
何しろ僕らは、学校で薬の副作用についてあんまり習っていない。せいぜい「NSAIDs出すならムコスタも一緒に出しとけ」ぐらいなもんでしょ。
病気そのものの症状と思われているけれど、実は治療のつもりで投与している薬による薬害だったということは、世間の人が思う以上に、はるかに多い。
精神疾患なんて、その最たるものだと思うんだよね。
このテーマについて語り出せばきりがないから、また別の日に。