院長ブログ

レーダー

2018.8.12

目にいい食材、と聞いて真っ先に何が思い浮かんだ?
そう、ブルーベリーだろう。
しかし『目にいい』とは、ずいぶんアバウト表現だね。具体的にどんなふうに『目にいい』のか。
おそらくは、眼精疲労や近視に有効、といった程度の意味だろうけど、実はこれらの症状への有効性を示すエビデンスは存在しない。
唯一、ブルーベリーの品種の一つであるビルベリーには、網膜症に対する有効性が示唆されているが、視力改善に対する有効性は確認されていない。(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0039625703001280)
ブルーベリーの成分にはアントシアニンが多く含まれている。アントシアニンは網膜上に存在するロドプシンという光感知タンパク質の再合成に関与し、このロドプシンが分解・再合成を繰り返すことで「ものが見える」という状態が維持されている。そこで、アントシアニンを積極的に摂取することにより、目の健康を維持できる、というのが、ブルーベリーが「目にいい」ことの理屈なんだけど、、、
目の不調といったって、全部が全部、アントシアニン不足によるロドプシンの分解・再合成障害にのみ起因するものじゃない。事実、二重盲検を行っても有効性は確認できなかった。
もちろん、ブルーベリーは体に悪いものではないだろうから、毎日適量食べる分には何ら問題はない。ただし、目の健康のために食べるのであれば、期待した効能は望めない、ということだ。

では、なぜ、ブルーベリーが目にいい、という俗説が生まれたのだろうか。
これにはれっきとした由来がある。
1941年、イギリス軍はレーダーの開発に成功した。レーダーはドイツ軍によるイギリス本土空襲に対する迎撃に見事な威力を発揮し、夜の闇に紛れて空爆しようとするドイツ空軍の戦闘機が、次々に撃墜された。
こうして、レーダーはイギリス本土を守るのに大いに役立ったわけだが、このレーダーの存在は、当然のことながら、当時のイギリス軍にとって絶対漏れてはならない軍事機密だった。
ドイツ軍もバカではない。なぜ急に、我が軍の戦闘機が撃墜されるようになったのか。その原因を必死に考える。
まさか、エニグマが解読された?エニグマ経由で送信する情報(爆撃の場所と日時等)がイギリスに筒抜けだったとしたら?
いや、それだけは決してありえない。1京通りの暗号パターンを解読できる方法はこの世に存在しない。何か他の方法で、我が軍の行動を探知しているはずだ。
ドイツ軍はスパイを潜り込ませてまで、何とかイギリス軍の機密をつかもうとする。

そこでイギリス側は、情報戦を仕掛けた。
『どうもイギリスの迎撃部隊では、スナイパー養成のため、ブルーベリーを大量に食べさせているらしい。ブルーベリーのおかげで夜目のきく腕利きの狙撃兵が、ドイツの戦闘機をバタバタと撃ち落としているようだ』
さりげなく流す情報に、ドイツ側、見事に食いついた。
撃墜率の増加は兵士の夜間視力改善によるものと軍上層部に判断され、ついに戦後になるまで、ドイツ側はレーダーの存在など思いもしなかった。
さらに、エニグマが解読されていたと明かされたのは、ようやく1970年代になってからのことだった。

終戦。
ひとまず訪れた平穏のときに、ドイツの研究者たち、先の戦争を振り返る。戦時中には忙しさのあまり見えなかったものを、今、改めて見つめなおし、自国の敗戦を彼らなりに分析しようとする。
『スナイパーの夜間視力向上のために、ブルーベリーを食べさせたという話があった。そもそもあれは本当なのか』
二重盲検を行う。4週間もすれば、結果が出る。有意差なし。
研究者たち、情報戦を仕掛けられたのだとそのとき初めて気付き、歯噛みして悔しがった。
しかし、今や戦後。平和の時代である。彼らの悔しさは、別の方向への情熱に向かった。
「ブルーベリーというバッタもんをつかまされた我々ではあるが、本当に目にいい食材は何なのか。それを究明しようじゃないか」

こういうとき、学者は世界中の文献や食生活を調べる。
彼ら、東洋医学の古い文献に、キク科植物の花弁が『肝を強くし、目を陽にす』との記述を見つけた。ここに研究の端緒を見出した彼ら、ついにキク科植物(マリーゴールド)から抽出した成分、ルテインが見事に視力を回復させることを証明した。
どうだい、壮大な話だと思わないか。レーダーの存在を秘匿しようとするイギリス軍のデマから始まった情報戦に対して、一度騙されはしたものの、その屈辱をバネに、ドイツは科学的な手法で見事に『本当に目にいい食材』を明らかにして見せた、という話だ。ウソからでたマコト、という感じだね。
だから、ブルーベリーが目にいいというのは、ウソなんだよ。
ブルーベリーを含有するサプリを扱う国内最大手『わかさ生活』のホームページを読んでごらん。どこを読んでも、「ブルーベリーが目にいい」「ブルーベリーが視力改善にいい」というフレーズは出てこないだろう。
というか、ホームページの宣伝文句だけ読んでいると、この会社の主力商品『ブルーベリーアイ』が一体何に効くのか、いまいちピンとこない。
「目にいい」って言っちゃうと、景品表示法とか、何か法律に引っかかるんだろうね。
『ブルーベリーアイ』っていう、何となく目によさそうな商品名で、はっきり効能はうたわずに、何となくのイメージで売る。
これはこれでうまい商売戦略だと思う。体に悪いもんじゃないしね。
プラセボ効果でもいい。信じる者は救われる、で、治した者勝ち、っていうのも全然ありだと思う。
個人的には、メグスリノキ、ケツメイシ、アイブライト、ビタミンE、Cなんかも併せて使えばもっと効果が出ると思う。要は抗酸化なんだよね。