院長ブログ

利他

2018.8.1

治った、と言ってくれるとうれしい。このうれしさは何だろう。
人間はやっぱり、何かをしてもらうより、何かをしてあげるほうに喜びを感じるようにできているんだ。
お笑い番組見て笑うのも楽しいけど、身近な誰かを笑わせるのも楽しいのと似ている。
僕がしていることは医療行為で、患者はそのサービスに対する代価を支払っているわけだから、経済活動ということになるんだけど、僕がうれしいのは、懐にお金が入ったからではもちろんない。
治ったよ、調子がいいよ、の一言。それが他の何物にも代えがたい励ましになっている。
もひとつやなぁ、いまいちよくないわ、と言われることももちろんあるんだけど、これはこれで貴重な言葉で、さらなる勉強へのモチベーションになる。

アルコール依存症の患者。
抗酒薬を処方し、ナイアシン、ビタミンC、マルチミネラルなども併せて開始した。
一か月後の今日、来院。
「お酒はまったく飲んでいません。不思議なんですけど、全然飲みたいと思わないんです。
いえ、抗酒薬が効いたのではありません。抗酒薬、せっかく処方して頂いたんですが、実は飲んでないんです。シアナマイドは冷蔵庫にそのまま残っています。
私が飲んでいるのは、サプリメントだけです。それで調子はすごくいいです。食欲もあるし、眠れています。
そう、睡眠の質がすごくいいんです。酒におぼれていた時は、酒がないと眠れなかった。でも寝れたとしても、せいぜい2,3時間ぐらい。
いったん目が覚めると、もう寝れない。体はもっと眠りを求めているのに、妙に意識が冴えてしまって。
それが今は、6時間は眠れます。仕事も絶好調です。」

ナイアシンがもたらす不思議な充足感。
飲酒欲求が消退するのはもちろんだが、眠りにもよい影響を与える。
眠りは小さな死であり、その死が充実している人は、生も充実している人だ。
人間、寝れて、食べれて、エッチできて、っていう基本的な欲求が満たされていれば健康だといえるし、そのどれかに不調を来しているということは、きっとどこかが病気なんだ。
エッチのほうはプライベートな事柄だから、問診でもあんまり聞かないんだけどね笑
でもまじめな話、ほんまは聞かなあかんねんけどね。

僕ら人間は、生まれてくるときは全くの無力で、親から何かとしてもらってばかり。
してもらうことが100、してあげることが0、って状態から、人生が始まるんだ。もちろん、お母さんが赤ちゃんに「あなたがいてくれるだけで、私は幸せなのよ」っていう、そういう表現は例外だけどね。
で、だんだん成長していくにつれ、「してあげる」ことが増えていく。家事の手伝い、弟の世話、友達との人間関係。
次第に世界が広がっていき、やがて就職、結婚。
仕事を通じて社会貢献の喜びを感じ、子供の成長を我がことのように喜んだりする。
やがて、老人になり、病み、自分で何もできなくなる。そうなれば、人に世話をしてもらうばかり。誰かに何かをしてあげる喜びは、もはや味わえないだろう。
そういうことを考えると、僕の人生は、きっと今がピークなんだ。
結婚していないから家族サービスの喜びは知らない僕だけど、患者が自分の人生を再度歩み始めるのを手助けする喜びは知っている。
この喜びをどれだけ積み上げていけるか、今後の僕の人生はそこが勝負所だ。