今日は、というか日付が変わったからきのうは、なんだけど、僕のクリニックの患者さんであり、かつ、僕の師匠でもある先生に晩御飯をごちそうして頂き、先生行きつけのバーにも連れていって頂いた。
1ヶ月前に当院来院の際にもその後食事に連れて行ってくれ、バーを回るという同じコースをたどったんだけど、またしてもごちそうになった。
先生は開業は高砂でしているんだけど、三十年ほど前には神戸で勤務医をしたから、神戸、特に元町にはすごく詳しくて、現在元町在住の僕よりもはるかに詳しい。
連れて行ってくれた店の大将に「震災前にはどこそこに何々という店があったけど、今はもうなさそうやね」「ええ、三年前にオーナー、閉店されました。ミシュランにも星のついた店でしたから、周囲も閉店には反対してましたけど、オーナーは、そんなもん関係ない、と」
「え、ミシュランの星ついてたん?それは知らんかった。ずいぶん格上げたなぁ」
「どっちかというと、オーナー、ミシュランに選ばれてもむしろ、不愉快そうでした。タイヤメーカーのくせに、うちの味なんか分かるわけない、偉そうに格付けすんな、と。あるとき、ふと、外人の二人組が店に来た。その時点でオーナー、ピンと来た。食後、名刺を渡されて、ここの店を紹介したいのですが、と言いに来た。名刺にはミシュランの名前。普通のオーナーなら、満面の笑みで「ぜひお願いします」ってなもんでしょう。でもオーナー、「外人に和食の味なんて分かるわけない」って思ってたから、ミシュランに掲載する写真の提供を求められても、拒否した。でも、ご存知ですか、僕は知らなかったんですけど、ミシュランへの掲載を拒否する権利ってないんですね。だから、店の名前は載ってしまう。写真は記者が勝手に撮った写真が載るっていう格好になりました」
若い頃、先生が「ここはうまい」と思って通っていた店が、後年ミシュランから評価を受けたわけだ。
こういうのって、商売っ気のあるオーナーにとったらこの上なくおいしい話だけど、本当の職人仕事をしたいオーナーにとっては、むしろ不愉快なのだという。
「オーナーはね、味を本当にわかったお客さんにお出ししたかったんです。ミシュランガイドに載ってるから、というのを見てから来る客は、料理を食べてるんじゃない。情報を食べているんです。予約が殺到して、本当に大事にしたい昔からのお客さんが気軽に店に入れなくなってしまう。何食わしても同じ味ボケの客の相手なんか、したないわ、ということを言われてました」
料理ではなく、情報を食べている。
でもこれって、みんな多かれ少なかれ、同じじゃないかな。
本当に味のわかる人って多分客全体の1割くらいで、8割の人は店の空気とか情報楽しみに来てて、味も「大ハズレじゃなければまぁいいよ」ぐらいの人、残り1割は何食わせても全く違いのわからない人、といったところだろう。
違いのわかる1割の客のために本当の仕事をしたいっていうオーナーの気持ちはわかるけど、客商売という性質上、その他9割のお客さんも大事にしないといけない。
うちに来てくれる患者さんもそんな感じじゃないかなとふと思った。僕の治療方針に理解のある人って1割ぐらいかもしれない。僕は別にそれで全然よくて、どんな患者でもウェルカムなんだけど笑。
でも僕は、そういう職人気質の頑固さとかこだわりって嫌いじゃなくて、むしろ僕もそういうこだわりを持ったほうがいいかもしれない。