院長ブログ

ニキビ

2018.7.13

「オーソモレキュラー療法?ああ、何か聞いたことあるな。ビタミンをバカみたいにたくさん飲む治療法でしょ」
まぁ、メガビタミン療法とかいうぐらいだから大雑把にはその通りなんだけど、言い方にちょっとトゲがあるね^^;

国はビタミンの摂取量に一応の基準を設けているんだけど、その基準値は本当に最低限で、「それを下回ればビタミン欠乏性の病気になっちゃうよ」ぐらいのぎりぎりの下限値なわけです。
脚気にならない最低限のビタミンB1摂取量とか、ペラグラにならないための最低限のビタミンB3摂取量とかが基準値として設定されている。
一方、栄養療法はそういう発想とはまったく違ってて、ビタミンの大量摂取によって病気を治してしまおう、というのがこの治療法のキモなんだ。
だから場合によっては、国の推奨基準値よりもケタが二つ多い量のサプリをとることもざらにある。

ビタミンの乏しい現代の食事が原因で病気になっている患者の体は、そのなけなしのビタミンで何とかやりくりしようと頑張っているものの、症状という形で悲鳴をあげている。
そういう患者の問診を通じて、体が必要としているビタミンを見抜き、そのビタミンを十分量投与するとどうなるか。
びっくりするぐらい調子がよくなるよ。
その回復ぶりに患者自身も驚くし、治療者としてそういう回復を見慣れている僕にとっても、患者の回復を見るのはいつも新鮮な気持ちがする。

「そんなに大量に投与することに、果たして意味があるのか?水溶性ビタミンの場合、過剰量は結局、尿中排出されるわけで、治療として意味をなさないのではないか」
なるほど、筋の通った反論だ。確かにそうかもしれない。
でもこういう反論をする人は、自分たちが患者に投与する抗生剤について、同じことは言わない。抗生剤の投与量に比例して尿中の抗生剤排出量も多くなるが、だからといって抗生剤は無意味だ、というふうには考えないだろう。
論より証拠。栄養療法、実際にやってみるといいんだよ。
一般の処方薬でまったく改善しなかった症状が、サプリで見事に回復する症例を実地に経験すれば、自分の今までやってた医療がバカバカしくなるだろう。

「過剰症は大丈夫なのか。脂溶性ビタミンはもちろん、水溶性ビタミンでも不必要に多い量を長期に投与することで何らかの弊害が起こるのではないか」
これが患者から聞かれた質問なら、基本的には、「心配いらない」と答えるようにしている。
唯一メガドースでいくべきではない脂溶性ビタミンは、ビタミンAだけだと思っている。
Kは摂取上限を決めようにも決められないぐらい安全性が高いし、Dも30000IUとかまでは全然平気だし、Eもホッファー先生は症例によっては5000IUとか普通に使ってた。
だから、まず心配いらない。
水溶性ビタミンも、もちろん心配いらない。それが原因で何らかのひどい副作用が起きるということはまずあり得ない。
ただ、ここからは患者にあえて説明しないところだけど、まったく副作用がないかというとそうじゃないとも思っている。
これは僕自身の話なんだけど、栄養療法のすばらしさを知って、僕もビタミンを飲み始めた。別に大量というわけでもなくて、マルチビタミンを1日3錠とかぐらいだけど。
体調は確かにいいと感じていた。
でもあるとき、おでこにニキビができ始めた。ニキビなんて思春期以来できたことがなかったから、これは明らかにビタミンの大量摂取を始めたせいだと思って、いろいろと文献をあさった。
すると、ほら、やっぱり思った通りだった。(https://europepmc.org/abstract/med/1834437)
ビタミンB6、B12、ビオチンあたりを過剰摂取すると、人によっては皮膚の常在菌叢が変化して、propionibacterium acnes(いわゆるアクネ菌)が増えるというんだな。
そこで、マルチビタミン(ビタミンB群)をいったんやめた。すると、ニキビはすっかり治った。
以来、僕は身をもって、ビタミンにも副作用がないわけじゃないんだ、ということを知った。
でも同時に、あつものに懲りてなますを吹くようなこともすまい、と思っていた。もうビタミンを飲むのなんてやめよう、とはならず、違うメーカーのマルチビタミンを使うようにした。
B6はピリドキシン塩酸塩ではなくてp5pを、B12はシアノコバラミンではなくてメチルコバラミンを使っているメーカーのサプリを使うようにし、1日1錠だけ飲むようにしたところ、以後、何の副作用も出ていない。
サプリの値段は高くなったけど、それだけの価値はあると思う。やっぱ安物のサプリは、その値段相応ってところがあるね。
で、いったんお高めのサプリのよさを知ってしまうと、患者にも良質なほうのサプリをすすめてあげたくなるんだけど、患者はあんまりいい顔しないな。「たけえよ」ってなるんだな。

僕はホッファーやソールの本から栄養療法の存在を知ったわけだけど、何も彼らの説が絶対だとは考えていない。現代の目から見て、正直、ちょくちょく間違った記述もあるからね。
これはまずいな、と思うところは僕なりに修正を加えるようにしているし、アダプトゲン(抗酸化作用のあるハーブ)の利用など、ホッファーやソールが全然言及していないサプリメントも僕は使っている。
だからといってホッファーやソールをリスペクトしていないかというと、決してそんなことはない。
守破離という言葉がある。最初はお師匠の教えを忠実に守るんだけど、試行錯誤重ねつつ、だんだん自分流にアレンジしていくのが、進歩ということだと思う。
アメリカには栄養療法を臨床現場で実践している医者がたくさんいて、それぞれの先生が自分なりの「守破離」を経たアレンジをしていて、そういう先生からも学ぶべきものがたくさんあると思っている。
たとえばThomas Levy先生もその一人で、彼の”Hidden Epidemic”という本は刺激的だった。
虫歯、歯周病など、口腔内の病気がいかに全身性の慢性疾患に影響を及ぼしているかについて詳しく書かれた本なんだけど、本の中にLevy先生オススメのサプリとその使い方が紹介されてて、参考になった。
またいずれ稿を改めて紹介するかもしれない。
今日はこの辺で。