院長ブログ

精神疾患と栄養

2018.7.6

我が子が何らかの精神疾患(統合失調症、うつ病、ADHDなど)にかかったとき、親御さんは「私の育て方が間違っていたのだろうか」と自責の念に駆られたりする。
これは、親御さんのいう「育て方」の定義にもよるけど、道徳的な意味での育て方が間違っていたのかどうかということなら、答えはノー。
子供を虐待していたとか、親である前に人としてどうなのかというタイプの親であった場合、その育て方が原因で精神疾患を発症することもあるだろう。
でもほとんどの親御さんは、子供に愛情かけて育てていて、そういう点では問題ない。
ただ、そういう普通の親御さんでも、食事の重要性をまったく認識していないことがあって、食育についての育て方を誤ったという意味でなら、答えはイエス。
食事だけが発症要因ではないが、大きな一因であることは間違いない。
もちろん、「お母さん、あなたの食育が間違っていたから子供さんのこのような不幸を招いたのです」なんて直球では決して言わないけど、少なくとも、食事に関する無知については、認識を改めてもらう必要がある。
子供の欲しがるままに甘いものを与えていたり、牛乳をたっぷり飲ませているお母さんに、食事の改善をアドバイスする。
「いえ、先生。それは違うと思います。体が必要としているからこそ、欲しがるんだと思います。疲れたときには甘いものが欲しい。人間として自然なことではありませんか。
牛乳がダメ?何ですかそれ。給食でも普通に毎日出てるじゃないですか。それが体に悪いっていうんですか。
先生は先ほど、たんぱく質が必要だと言いましたね。牛乳ってまさにたんぱく質そのものでしょ。なのに牛乳がダメって、矛盾してませんか」
たまに熱くなる人がいる。
こういう人にとっては、我が子が精神疾患を発症したのは、「遺伝の影響」あるいは「もっと精神病理的に根深い何かが、先天的にあったからだ」などと言われるほうが、まだしも楽なのだと思う。

「僕はかつて精神科病院でアルコール依存症の患者さんをたくさん見てきました。彼ら、酒が欲しくて欲しくてたまらない。酒のためなら、犯罪をも厭わない。それぐらい体がアルコールを必要としているんですが、僕は医師として、彼らの『体の声』に素直に耳傾けて、お酒を飲ませてあげるべきでしたか」
「極論です。先生は論点をすり替えています」
いや、要するにドーパミンの刺激を得る手段が、お菓子なのか酒なのか、あるいは人によってはギャンブルだったりするというその違いだけで、依存の生理的メカニズムは共通なんだ、だからこそゆるやかなドーパミン刺激作用のあるナイアシンが有効なんだ、と言おうとしたが、僕は言葉を飲み込んだ。言ってもムダだと思ったからだ。

こういうお母さんは、どうすれば子供の症状がよくなるか、という解決策を真剣に求めてるんじゃない。自分を肯定してくれる論理が欲しいだけなんだ。
食べさせるものが間違っていた、となれば、非が自分にあったと認めないといけないんだけど、こういうお母さん自身、糖質依存のことが多い。子供の食を変えるとなれば、自分の食生活まで改めざるを得ない。家族で食べに行くスィーツバイキングが何よりの楽しみのお母さんにとって、糖質悪玉論は、何とも受け入れがたい。
この人が僕の身近な大事な人だったら、僕も本音で言ったと思う。
「スィーツバイキング?カタカナでええかっこ抜かすな。ただの甘いもんのドカ食いじゃねえか。自分の食事を変える気もないんやから、そりゃ子供の食事も変えられへんわな」
相手はお客さんだから、もちろんこういう言葉は出ない。極力争わず、「それぞれの考え方があっていいと思います。どうぞ、お母さんがベストだと思う子育てを実践してください」と穏やかに言って場を丸めて、お引き取り願う。

実は統合失調症に関して言えば、遺伝的要因は確かにある。一卵性双生児の研究など、精神疾患の遺伝性を示唆するデータは多い。
最近でこそ精神科への敷居が低くなったものの、昔は家系に精神病者が出たら必死にその存在を隠したものだった。本人のみならず、身内に精神病者がいるだけで就職とか結婚にもろに影響が出たという。
今でもそういう面はあるのかもしれない。
履歴書に「うつ病の既往あり」と正直に書けば、採用される可能性はどうなるか。社員がうつを発症して仕事を休んだ場合、会社としてはその間の有給の保証などせねばならず、できればそういう負担は避けて、心身ともに健康な人材を採りたい。会社は営利団体であってボランティア団体ではない。会社が精神疾患の既往のある人の採用を避ける傾向があるのは、ある意味当然だろう。
結婚に関しても、好きになった人とお付き合いして、いよいよ結婚となったときに、「実は…」と精神疾患の既往があることを打ち明けられたら、どうすればいいか。「この人のことは好きだけど、子供までそういう病気を引き継いだとしたら」と思って、結婚を見送ることもあるかもしれない。

こういう人たちにぜひ伝えたいのは、栄養療法なら精神疾患の発症を予防できる(もちろん治療もできる)ということだ。
適切な栄養の摂取によって、遺伝性のある精神疾患含めあらゆる病気と無縁でいられる、というのが栄養療法の信条で、この栄養療法の知識が広く普及すれば、精神疾患も恐れるに足りないということが分かって、精神疾患の既往があるというだけで不採用になったり破談になったり、という不幸が減るはずだと僕は思っている。