院長ブログ

エコー

2018.7.5

「CTを一回とれば、レントゲン百回分とも言われる線量の被爆をする。
MRIは造影剤を使えば腎性全身性線維症になるリスクがある。
でも、エコーは無害。
妊婦のおなかの中にいる赤ちゃんの様子を見るために使われてるぐらいなんだから、心配いらない」

医学部ではそんな具合に教わった。
侵襲性が低く、無害なのがエコーの売りだから、そこだけは心配しなくていい、と。
日本超音波医学会も、安全性について「装置機能や動作モードの多様化に伴い、音響出力は増加傾向にある」ことを認めながらも、「診断用超音波のレベルで明確に有害な作用が生じたという報告例は、過去数十年間ない」としている。

本当だろうか。
実は、エコーの危険性を示唆する研究はずいぶん前からあった。
Liebeskind(1979-1981)、AndersonとBarret(1979-1981)、Ang(2006)、Ellisman(1987)、SaadとWilliams(1982)などはエコーの危険性について警鐘を鳴らしたが、医学会はこれらをことごとく無視してきた。
「有害性が示されたとはいっても、あくまで動物実験や細胞レベルでの結果だし、しかも実際の臨床現場で使われているエコー強度よりも強い音響出力を使ったから、そういう有害事象が生じたんでしょ?そんな実験結果は無意味だ」というのが彼らのお決まりの言葉。

害があるのかないのか、人を使って実験できれば一番手っ取り早いのだが、それは人体実験であって、倫理的に許されるものではない。
仮にマッドサイエンティストみたいな研究者がいて、人体実験を行ったとしても、そんな研究論文はどの科学雑誌もアクセプトしないだろう。
それどころか、「この研究は人間の尊厳を冒涜するものであり、重大な犯罪でもある」ということで、世界中から批判されることになるだろう。

そう。欧米の倫理では、許容されない。
では、どこか価値観の違う国でなら?
実は中国では、経腹エコーの胎児への影響を調べるため、多くの人体実験が行われていた。
一人っ子政策のため、二人目以降にできてしまった子供はおろさざるを得ない。でもそんなときに、エコーを腹部に当てる研究に協力すれば、無料で堕胎手術を受けられるばかりか、ちょっとした謝礼までもらえるのだから、研究への参加者を集めるのに苦労はない。
こんな具合に、1988年から2011年にかけて、人体実験に基づく研究論文がおよそ60本上梓された。関与した科学者はおおよそ100人。協力した妊婦は総計3500人、胎児も含むならば約7200人がこれらの研究の被験者となった。

そういう人体実験のデータって、別に中国の研究者は隠しているわけではなくて、堂々と中国の学術誌に投稿されていたんだけど、言葉が中国語だから、欧米の研究者の目に触れなかった。
でも、最近のgoogleの自動翻訳の技術って精度もすごく上がってきてて、そのおかげで欧米の研究者もそういう中国語文献にアクセスできるようになって、その存在が知られ始めたわけ。

中国と言えば、漢方薬発症の地。漢方薬というのは5000年間にわたる経験的知見の積み重ね、つまり人体実験の集大成に他ならない。
だからあの国にとっては、ある意味、人体実験はお家芸、とも言えるんだけど、エコーの胎児への影響を分析するための科学的な技術力はどうなのか、と思われるかもしれない。
はっきり言って、現在の中国の科学技術力は欧米と比べてもまったく遜色ありません。エコーを一定時間胎児に照射して、その後、中絶児の組織(たとえば脳、腎臓、目、絨毛膜羊膜など)を調べるんだけど、フローサイトメトリーや電気泳動など、最新の生化学的分析も使えば電子顕微鏡も使う。
むしろ欧米の研究よりも技術的に洗練されているし、被験者の数、時期やテーマの妥当性、研究の量、いずれにおいても欧米を上回っている。

中国の研究者たちを動かしていたのは、純粋に科学的な好奇心だと思われる。
日本も含め欧米では、「現在のところ、人で確認されたエコーによる有害事象は存在しない」ということになっている。かといって、人を使って有害事象の有無を確認しようにも「それは人体実験だ」という批判が来ることが見え透いているから、実験を行うこともできない。結果、「害は多分ないから、使ってオッケーってことにしちゃいましょう」ということでなし崩し的にズルズルとここまで来た感じだ。
でも中国はそういう倫理観の点ではぶっ飛んだところがあるから、とっくの昔に人体実験をやっている。しかも重要なのは「エコーの照射時間、音響出力なども、実際の臨床現場で使われているエコーと同じような条件で行った」ということだ。
彼ら、実臨床でのエコー使用がどんな悪影響を与えるか、純粋に知りたかったんだな。

具体的に、そうした研究のひとつを、ここに例としてあげよう。

妊娠中期におけるヒト胎児脳神経の超微細構造に対する診断用Bモードエコーの影響についての研究
目的:診断用Bモードエコー照射後の妊娠中期ヒト胎児脳神経での超微細構造の変化を研究すること
方法:健康な8人のボランティアの女性(単生児を妊娠中の妊娠18週から25週で、中絶希望の女性)が無作為に2群に分けられた。コントロール群(n=4)にはエコー照射は行わなかった。実験群(n=4)に対して陣痛誘発する30分前に、胎児側頭部に連続して10分のエコー照射を経腹で行った(周波数3.5Hzで70%の出力、SPTA=124.1mW/cm2)。
電子顕微鏡で調べるために、手順通りの手技によって全ての胎児大脳から標本が取られ、透過型電子顕微鏡で観察した。
結果:エコーを10分間連続照射した後では、胎児の脳神経細胞は、コントロール群に比べて以下のように変化していた。
(1)クロマチンの分布が不規則で、凝集していたり辺縁へ移動していた。
(2)細胞質内にグリコーゲン分子がほとんど見られなかった。
(3)一部のミトコンドリアに軽度の膨張あるいは空洞化が見られた。
(4)リソソームがしばしば観察された。
結論:胎児大脳の神経細胞の超微細構造は、診断的Bモードを10分間照射した後では形態学的に変性していた。変性した神経細胞はほとんど再生しないため、胎児の脳をモニターするために診断用エコーを用いるのは、特に妊娠初期から中期には、10分を超えるべきではない。
この研究で重要なのは、使用されたエコーが経腹のBモードという比較的安全なタイプだということである。当てていた時間はわずか10分だった。エコー強度は母体の組織や体液により実質弱められている。経膣エコー(胎児にもっと近く、もっと強度が高い)あるいはドップラーモード(高強度)では、危険性ははるかに大きいということである。

どのような機序でエコーが人体に影響するのか。この実験によると、「エコー照射によって胎児細胞中のミトコンドリアが破壊され、アポトーシスが誘導されるから」ということだ。あるいは、アポトーシスというよりも、はっきりネクローシスと言ってしまったほうがいいかもしれない。

エコー操作のうまい産婦人科医に、ほんの数秒だけ経腹エコーを受けたぐらいなら、胎児に影響はないと思う。
でも、たとえば大学病院に通院してる妊婦さんが、医学生の実習に付き合わされて、ドップラーエコーで10分とか胎児照射されたりすると、これはもう、極めて危険性が高い。

妊婦の皆さん、産婦人科の先生はきっと「エコーは無害」って言いますけど、中国の人体実験のデータによると、この発言は正しくありません。
正しくは、「ごく短時間のエコー曝露ならば、有害事象は確認されていない」ということであって、無害ということでは決してありません。
大学病院とか研修医の訓練病院で、「教育のために協力してもらえませんか」とお願いされても、勇気をもって断りましょう。
学生や研修医の下手なエコー照射を長時間腹部に当てられては、おなかの中の赤ちゃんは相当な苦しみを味わっているはずです。

今やエコーは産婦人科にとって必須アイテムだから、「うちの病院ではエコーは使いません」なんて産婦人科はまずあり得ない。
妊婦さんのほうでも、「エコーで我が子の顔を見て初めて、我が子への愛おしさがわいた」とか言うし、エコーが母と胎児のきずなを深める橋渡し、みたいな印象を持っている人も多い。
男の子か女の子か、出産前にエコーで性別を調べるのは今や常識になっているし、おなかの中の赤ちゃんの写真を撮って、将来の記念に置いておく、というのも一般的になっている。
実はそうしたことは、胎児を不必要に長時間エコー照射にさらす非常にリスキーな行為なんだということは認識しておくべきだ。

参考文献
Jim West “50 Human Studies”