タバコを吸うのは元来アメリカ原住民の文化で、大航海時代にその習慣が西洋に持ち込まれ、世界中に広まったわけだけど、アメリカ原住民の間に肺癌や咽頭癌が多かったという話はない。
伝統的な農法で栽培されたナス科タバコ属の乾燥葉に火をつけて、その煙を吸うだけなら、何ら体に悪いことはないんだ。
体に悪いのは、タバコの栽培時に使われる大量の農薬であり、また、タバコの製造過程で使われる添加物だ。
だから、無農薬・無添加のタバコであれば、健康への影響を気にせず楽しめるだろう。
ただ、そういうタバコがあるのかどうかは知らない。
「アメスピならいいですか」と聞かれたことがあるけど、紙巻きタバコである限り、紙には助燃剤が含まれているだろうし、紙が燃えるときの嫌なにおいを消すために香料が使われているかもしれない。
そのあたりの詳細は僕も知らないので、「わからない」と答えるしかない。
紙巻きタバコではなくて、パイプタバコに切り替えればそういう懸念は一掃されるだろうけど、一服のために、チェンバーに葉っぱをつめ、タンパーでならし、火加減を調整しながら吸う、という手間を楽しむ余裕がある人は、多くはないだろう。
僕自身はタバコは吸わないけど、最近の嫌煙活動の異常な高まりには個人的に違和感を持っていて、そういう風潮のなかであえてタバコを継続している人には、ある種の芯の強さを感じる。
「いや、やめたいと思っているけど単にやめられないだけなんだ」ということであれば、栄養療法的に禁煙のお手伝いをすることは可能だけど、「いや、タバコは俺のスタイルだから禁煙を考えたことはない」というのであれば、それはそれでひとつの美学として尊重したい。
アラン・ドロンの若い頃の動画を見た。
もう、信じられないくらい男前なんだ。
特にタバコを吸う仕草が文句なく魅力的で、中学生の時にこんな動画を見てしまったら、僕も喫煙者になっていたかもしれない。
タバコは大人の象徴で、大人がカッコよかった時代、というのが確かにあったんだよね。
タバコの形をしたココアシガレットなんていうお菓子があったけど、喫煙者の肩身の狭いこの時代、あんなお菓子はもうはやらないだろう。
外人だからかっこいいんじゃないよ。侍の一服姿もしびれるわぁ。
火をつけて、吸って、煙を吐き出す、その仕草の一つ一つ、一連の流れがかっこいいのであって、今流行のiQOSにはそういうダンディズムが全く感じられないから、あんなの吸うぐらいなら禁煙すればいい。
医者としては不適切な発言だと承知でいうけど、美しかったり、かっこよかったりっていう詩がそこにあるのなら、僕はそういうの、許してしまうほうです。
でも、受動喫煙への気配りか自らの健康への配慮か、よくわからないけど、あんなださいのには共感しない。
タバコは薬物としてはちょっと不思議で、依存性はあるんだけど、耐性がない。
一度に一本吸うだけでは物足りなくて、一気に二、三本吸う人なんて見たことがない。一本吸えば、それできっちり満足できる。
これはタバコに耐性がないからだ。
タバコに含まれるニコチンがニコチン受容体を刺激する。その刺激でドーパミンニューロンが活性化され、ドーパミンが放出され、気持ちよくなる、というのがタバコの薬理学的機序だ。
禁煙したいという人に対して、栄養療法的にアプローチするとすれば、なんといってもナイアシンだ。
ナイアシン(ビタミンB3)はかつてはニコチン酸と呼ばれていたが、タバコのニコチンを連想させてしまうためイメージが悪い、ということで名前が変更されたという経緯もあるぐらいなもので、つまり、そのもともとの名前が示す通り、ニコチン受容体に作用する。結果、ドーパミンの放出が促され、報酬系が快感を得る。
だから、作用機序から言えば、ナイアシンは禁煙補助薬とほとんど同じような効き方をしてるんだけど、バレニクリンのような副作用がないのがナイアシンの有り難いところ。それどころか、体の様々な不調をもついでに治してくれるはずだ。
だいたい、タバコは百害あって一利なしって言われてるけど、これは完全なウソだよ。
たとえば喫煙者のほうがパーキンソン病にかかりにくいし、潰瘍性大腸炎に対して治療効果が確認されたときは、研究者はこの発見にむしろ頭を抱えた。
「百害あって一利なし」と悪者にしてきた薬物なのに、治療適応として喫煙を推奨、という話にもなりかねないわけで、ここまでのあからさまな方向転換はさすがにためらわれたからだ。
さらに言うと、タバコを吸っている人のほうが自殺率が低いよ。
休憩時間に一服して、「よし、午後も仕事頑張ろう」とか思える感じは、喫煙者なら毎日のように経験していて、実感としてわかるだろう。何か悩みがあっても、一服すれば、「まぁ何とか頑張っていこか」と前向きに思えるんだ。一服後に「もう死のう」なんて気持ちにはまずならない。ドーパミンのなせるわざだな。
とすれば、タバコを吸わない自殺企図者には、まじめな話、タバコを治療適応として勧めるというチョイスもあり得てくるわけなんだけど、それぐらいなら、ナイアシンをすすめればいいと思う。
「ナイアシンがドーパミンの放出を促して、依存性薬物からの離脱症状を抑えるのだとして、それならば今度は、ナイアシンに対する依存症になってしまわないか」という質問が出るかもしれない。
それが不思議なことに、ナイアシンにはまってしまうということはないんだ。
少なくとも僕はそういう患者を見たことがないし、『タバコ依存の代わりにナイアシン依存を発症した一例』みたいな症例報告も見たことがない。
とにかく、何であれ依存症に対する離脱症状を緩和して、やめるお助けになるビタミン。それがナイアシンだ。
唯一、副作用らしい副作用があるとすると、ホットフラッシュだ。これだけは患者に事前に重々注意しておかないといけない。
ナイアシンによってヒスタミンの放出を促され、結果、末梢の血流がよくなって、顔や首が発赤したりかゆくなったりする。
ナイアシンの半減期は90分ほどなので、個人差もあるが、1,2時間もすれば次第に症状は消え始める。
ホットフラッシュは初めてのナイアシン服用時に最も強く出るが、毎日飲むうちに、次第に出なくなる。
このホットフラッシュが不快な人は、事前にビタミンCを飲んでおくといい。
ビタミンCにはヒスタミンを破壊する作用があるから、ホットフラッシュが軽減される。