レイテ島に出征した夫が日本にいる妻に宛てたハガキ。
ずいぶん古いため、擦り切れて読めない文字もある。文中、「身重」と読めなくもない箇所があるが、判然としない。
父は母の妊娠を知っていたのだろうか。つまり、出生前、日本に残していく妻のお腹のなかに、僕という子供が宿っていることを知っていたのだろうか。
『探偵ナイトスクープ』にあった依頼だ。
拡大コピーしたり、photoshopで画像処理したりして、何とか文字を読み取ろうとするが、できない。
最終的に、奈良文化財研究所で、赤外線で炭素を吸収させる最新技術を用いて、見事に全文解読された。
依頼者の予想通り、その文字は「身重」だった。
戦地の夫は、妻のお腹のなかにいた子供のことを認識していたのだ。のみならず、その手紙には、夫の、妻や子供への思いが溢れていた。
数十年の時を経て明かされた、今はこの世にない人の、強い家族愛。
依頼者も探偵も、それに文化財研究所の職員までもが、皆その思いに打たれ、涙するのだった。
何の話をしているのか。
技術のすばらしさ、の話をしています。
これまでなら「わからない」で終わっていたことが、最近の技術の進歩によって、その背後にある「物語」を見事に発掘する、ということができるようになってきた。
また別の話。
夫は結婚後すぐに南洋に出征し、そのまま帰らぬ人となった。終戦後、いくつか見合いの話もあったが、結局全て断った。「私は独身ではない。夫は長く留守をしているだけだ」と。
夫の写真が数枚ある。何度も見つめて、ほとんど心の中に焼きついている写真だ。
大事にしていたものではあるが、ずいぶん擦り切れて、褪色も激しい。
92歳。甥夫婦とその子供らと同居しているが、まだかくしゃくとしている。自分のことは自分でやらないと気が済まず、あまり世話を焼かれるとかえって不機嫌になる。庭いじりとゲートボールが趣味で、毎日の生活を楽しんでいる。
画像処理のプログラマーをしている孫が、おばあちゃんへのサプライズを企てた。
祖母の宝物の写真をデータとして取り込んで、出征した夫の顏を、3D空間に再現した。
その画像のあまりの鮮明さに、腰を抜かしそうなほど驚き、そして、延々涙を流し続けた。
70年待ちぼうけを食わされた悔し涙であり、再開を果たした嬉し涙であり、その他、言葉にできない感情のかたまりが爆発して、とにかく泣き続けた。
「どうですか。これ、いい話でしょう?
AIの最新技術を使えば、もっとすごいこともできますよ。音声データと、会話のパターン(本人の話す内容、話し方、口癖など)に関するデータがあれば、いわばその人をコンピュータ内に再現し、会話することも可能です」
介護施設に医療機器を卸す仕事をする営業の人の弁。
僕はほとほと感心した。
AIは神か悪魔か、それは僕にもわからないけど、使い方次第で、すばらしい魔法の技術になると思う。
それに比べて、医学のほうは、、、
いくら高い解像能のCTができようと、iPS細胞の技術が発達しようと、果たして僕らの健康に直結するかっていう話になると、僕は相当疑問に思っている。
医学においては、まず、毎日食べる栄養が大事で、最新技術がどうのこうのって話は、僕にはずいぶんピントはずれに思えるんだよね。