ふらっと近所のバーに行って、ワールドカップを見てきた。
横にいた全然知らん人と、ゴールの時に一緒に喜んだりしてた。
普段は、「スポーツの国際的な試合などというものは、ナショナリズムをあおりたてるだけの発情装置に過ぎない。
僕はね、自分の人生にしか興味はないんだ。他人の勝った負けたに同調して、一喜一憂するつもりはない。こんなものに入れあげるなど、愚の骨頂。そんなふうにだけはなりたくないね」
などとカッコつけたこと言ってるくせに、いざワールドカップとなると、日本のゴールのたびに知らない人とハイタッチ。
集団の熱狂にすっかり染まってるじゃないか。
ナショナリズム、なんていう大層なものじゃなくて、お祭りを楽しんでるだけのつもりなんだけどね。
さて、バーを出て、酔いから覚めてみると、普段の自分に戻っている。
サッカー日本代表が勝っても負けても、別に僕の明日からの診療に何の影響もない。
「なんでふらっと酒場に行っちゃったのかなぁ。その間に学術論文の一つでも読めただろうに」とか貧乏くさいことを思ってしまう。
「先生、きのう院長ブログにあげてた話なんだけどさ、患者目線でちょっと言わせてもらいたいことがある。
お薬手帳さえ持ってないテキトーな人もたくさんいるんだよ、ってこと。
私が昔そうだったもん。
どんな薬が出ようが、興味ない。医者から処方されたものなんだから、いいもんだろう、治してくれるだろう、って感覚。
薬の名前をわざわざネットで検索して、どういう作用や副作用があって、なんて調べたことなかった。
良くいえば、医者のことを信頼しているってことなんだけど、悪くいえば、というかこちらのほうが実態に近いと思うけど、面倒くさいんだよね。
自分の体を気遣うことを、人任せにしている。他でもない自分の体のことなのにね。
医者はプロなんだから、言うことを聞いていれば悪いようにはならないだろう、ってさ、ある意味甘えなんだろうけど、私もそういう感覚でずるずるとここまで来た。
そんな具合に、睡眠薬はもう、かれこれ20年ぐらい飲み続けてた。
薬は絶対手放せなかったし、そもそもやめようなんて発想自体なかった。
私が変わったのは、先生と出会ったからだよ。
これは本当。先生がいなかったら、今もずっと、たくさんの薬を飲んでその副作用に苦しんでいたと思う。
先生に出会う前の処方は、こんな感じだった。
デパス錠1㎎ 3錠 朝昼夕食後
ワイパックス錠0.5㎎ 3錠 朝昼夕食後
グッドミン錠0.25㎎ 2錠 就寝前
デパス錠1㎎ 1錠 不安時
マクサルト錠10㎎ 1錠 頭痛時
セルベックス細粒10% 1.5g 朝昼夕食後
薬漬け、ってこのことだろうね。
薬のおかげで何とか日常生活ができている、というのならわかるんだけど、私、これだけたくさんの薬を飲んでいながら、家では廃人みたいな寝たきり生活。
仕方ない、これが私の病気なんだ、って思って、自分の人生を半分あきらめてた。
そんなときに、主治医が先生に変更になった。私も病院通い長いからいろんな医者を見てきたけど、先生はまったく違ってた。
問診からして違うんだよね。
『きのうの夜は何を食べたの?ふむふむ、で。昼は? じゃ、朝は何食べた?好きな食べ物は?』って。
食事内容が何の関係があるの?って思った。食事の内容なんて、医者から聞かれたこと、初めてだったから。
意味が分からな過ぎて、私のこと口説いてるのかって思ったぐらい笑
何回も言われたのが、栄養の重要性。
『僕らの体は食べ物からできている。食べ物を変えれば体が変わる。体が変われば、心も変わる。精神疾患も治るよ』
というのが先生の信念だった。
先生の治療を受けて一年後、今の私の処方はこんな感じ。
リーマス錠200㎎ 4錠 朝夕食後
メイラックス錠2㎎ 1錠 就寝前
ロゼレム錠8㎎ 1錠 就寝前
こんなにも薬を減らせたのは自分でも信じられない。特にデパスがやめれたことは、奇跡だと思う。
寝たきり生活から立ち直って、新たに仕事も始めた。
こういうふうにまた人間らしい生活を送れるようになるなんて、去年には想像もできなかった。
先生が病院のシステムのなかで苦しんでいたことは、先生のブログを読んで初めて知った。
自分のスタイルを実践するために、患者を守るために、内心で苦労してたんだなって。
先生がいなくなってから別の先生が主治医になったんだけど、その先生はやたらに薬を増やそうとするから、私、抵抗する。
先週も、かなりの口論の末、リーマスを800に増やされて、睡眠薬を新たに出されそうになった。
最初、ルネスタを出すって言われたから、「それ、ベンゾじゃん。アモバンの改良版でしょ。いらないよ」って言ったら、
「いや、ベンゾじゃない。非ベンゾジアゼピン系だ」とか屁理屈言われて、それで口論になった。
でもね、私、本当に変わったなって思う。
医者に出された薬を黙って飲むだけだった私が、医者とこんなふうに口論できるまでになったんだよ。
それも、先生が私の意識を変えてくれたおかげ。
自分の体のことなんだから、自分で守らないとな、って。
自分の体にいれる薬なんだから、薬のこと、ちゃんと知っとかないとな、って。
先生は県外に行っちゃって、先生のところには通えないけど、私、もう大丈夫だと思う。
栄養のこと、体のこと、学び続けようっていう、この気持ちがある限り、何とかやっていけると思う」
この患者さんは、僕の考え方に共感してくれて、栄養の改善に積極的に取り組んで、結果、薬をかなり減らすことに成功した。
僕が勤めていた病院をやめて開業してからも、僕のことをさりげなく応援してくれてて、アップした動画を見て「髪型が変」とか「Tシャツのセンスがアウト」とか有り難いダメ出しをくれます笑
患者から「先生のおかげで病気が治りました」などと言われたら、医者としてはうれしいことだけど、これは実は、ちょっと違うと思う。
患者を治したのは、僕というよりは、理論なんだ。
僕がしたのは、その理論を患者に適用しただけ。
極論すれば、患者が栄養療法の本を自分で買って、自分で実践すれば、実は同じように治るんだよね。
僕の一番の理想は、栄養療法の知識が世間一般の常識になって、みんな栄養の重要性をきちんと認識して、そもそも病気にならない、なっても食養生やサプリメントで自分で治せちゃう、っていう状況になることだ。
でもその理想が本当に実現すれば、僕のクリニックの必要性もなくなって、廃業しちゃうことになるんだけど笑
「先生のおかげで病気が治りました」ではなく、「先生のおかげで意識が変わりました」って言われるほうが、僕ははるかにうれしい。
意識が変わった人は、僕の治療を離れてからも自分の足で歩き続ける。
本当の意味での回復って、きっとそういうことだよね。