ビタミンの発見者はカシミール・フンクということになっている。
彼、1912年に米ぬかから抽出した成分に、生体に不可欠な栄養分が含まれることを示したわけだけど、すでに1911年に鈴木梅太郎が、ビタミンという言葉こそ使っていないものの、ビタミンの概念をはっきり提示していた。
だいたい、米ぬかなんて西洋人にとって全然なじみのない食材で、そこから栄養分を抽出しようなんて発想、西洋人には浮かばないでしょ。
フンクが鈴木の論文を下敷きにしてることは明らかだと思うんだけど、ビタミンの歴史で鈴木梅太郎の名前が言及されることはない。
当時の平均的な西洋人にとってみれば、日本なんて格下の三流国だったから、西洋人がしたならばノーベル賞をもらっておかしくない研究でも、それが日本人によってなされたというだけで正当な栄誉を与えられなかった研究は数多い。北里柴三郎、志賀潔とか。あと、高峰譲吉もひどい目にあったね。アドレナリンの発見者なのに、「あいつ、俺の研究パクりやがった」ってアメリカの研究者に難癖つけられて、で、この主張が通って、アメリカではアドレナリンの呼称は用いられず、エピネフリンって言われてる。その点ヨーロッパは割と良心的で、発見者の高峰に敬意を払って、ちゃんとアドレナリンと呼びましょう、って動きがある。
さて、以下は”Orthomolecular Medicine for Everyone”からの引用。
「チアミン(ビタミンB1)は1912年カシミール・フンクによって初めてビタミンと呼ばれた微少栄養素である。食物に栄養素が欠けているという概念は、当時あり得ないと考えられていて、これは現在、医師にオーソモレキュラー医学の考え方があり得ないと思われているのと同じである。パトリック・マンソン卿は、日本の海軍が船員の食事を改善することで脚気を一掃したことを知っていたが、それでもなお、脚気は感染性疾患だと確信していた。チアミンは食品の加工技術(精米・精白技術)により脚気の原因となる欠乏症が現れたために発見された。精白米を食べていた人々は脚気を発症し、玄米やパーボイルド米(籾米を吸水させ蒸してから乾燥、精白する。胚芽やぬかに含まれるビタミンやミネラルが白米部分に移行して栄養価が高まる等利点がある。)を食べていた人では発症しなかった。湯通しによってチアミンがぬかや胚芽から胚乳部に移行したためである。チアミンは1936年R.R.ウィリアムズによって合成された。
炭水化物はチアミンがなくては代謝されない。ピルビン酸が蓄積して、毒性レベルまで高まり、乳酸アシドーシスを来たす症例もある。脚気は極東の風土病ではあるのだが、それはまた、アルコール依存症、吸収不良、重度の下痢、コントロール不良の嘔吐といった症状を持つその他地域の人々にも起こり得るものである。
欠乏の初期症状は疲労感、体重減少、食欲不振である。後に、消化器症状や、下肢にチクチクする痛みや感覚異常のような神経学的兆候が現れる。食事の改善のないまま何年間も経過すると、慢性的な乾性萎縮性脚気が起こる。患者は下垂足、尖足、声帯の麻痺といった神経筋障害の病理像を示す。頻脈が常に存在する。脚気がよくある国で母乳で育てられた乳幼児は非常に危うい状態にある。便秘、嘔吐、腹部腫脹といった症状に苦しみ、号泣発作や落ち着きのなさも見られる。ひきつけが起こることもある。
脚気はアメリカやカナダでは稀だが、潜在性の状態は恐らく稀ではない。白い小麦粉にはチアミンが添加されているが、これは全粒小麦に含まれるのと同じ水準(小麦1g当たりチアミン4 mcg前後)にまで高めることが目的である。チアミンは全粒穀物(あるいは栄養強化穀物)、レンズ豆、栄養状態のよい動物の肉、イーストに含まれている。潜在性脚気はたいていアルコール依存症者か、砂糖あるいは脂質を食べ過ぎる人か、吸収不良をわずらう人にしか見られない。現代の病院に入院している患者は、恐らくこのリスクが高いだろう。
チアミンはウェルニッケ・コルサコフ症候群に対する特別な治療法だと考えられている。精神的要素に対してはビタミンB3の方が効くが、せん妄の多くのタイプのような神経学的要素にはチアミンが大変有効である。理想的には、あらゆるせん妄は十分量のチアミン、ビタミンB3、アスコルビン酸(抗ストレス作用を期待して)、それにミネラルのサプリメント(特に亜鉛)で治療すべきである。現実には、単一の栄養分だけが欠乏しているということはない。器質性の錯乱状態(せん妄)が起きている状況では、複数のビタミン・ミネラル欠乏(あるいは依存)が起きているはずである。
チアミンはアルコール依存症者の治療に用いられるべきである。J・F・ケイドはマルチビタミンと一緒に少なくとも200㎎のチアミンを経静脈的に投与した。1945年から1950年に86人のアルコール依存症患者が亡くなったが、チアミンを導入した後では、1956年から1960年の間の死亡は8人、その後はアルコール依存症者の入院が増加したにもかかわらず、死亡者はゼロになったことを、彼は発見した。同じくらい劇的な効果はビタミンB3やアスコルビン酸にも見られる。恐らくこれら三つ全てを使用するべきだろう。
オーソモレキュラー精神科医は、アンフェタミンへの欲求を抑えるためにチアミンを使っているし、チアミンは一部のうつ病患者にも有効である。多発性硬化症に対して、マルチビタミン投与の一部として、あるいは単体で、高用量のチアミンが用いられている。
ビタミンB1の摂取
RDA/DRIでは1日2㎎以下となっているが、高用量療法ではチアミンの摂取範囲は1日100㎎から3000㎎と幅がある。たいていは1日1000㎎以下でよい。チアミンの安全性については信頼できる歴史があり、経口で摂取しても毒性はない。チアミンにはナッツのような妙な風味がある。マルチビタミンの瓶をあけてその匂いをかぐと、それは恐らくチアミンの匂いである。高用量療法を行うと、似たような匂いが体からする可能性がある。最も多い副作用は高用量を投与したときの吐き気だが、これさえ稀である。チアミンは注射によっても使用できる。ある種の状況、たとえばアルコール依存症やその関連疾患では、B1を最初から注射で使うのが望ましいかもしれない。」
引用ここまで。
「人はパンのみにて生きるにあらず」というフレーズが聖書にありますが、これは、精製した白パンだけ食べていてはたちまちビタミンB1欠乏に陥ってしまうことをイエス様も知っていたのです。「人はパンのみにて生きるにあらず。酢豚も追加オーダーすべし」というのが旧約聖書に本来見られる記述なのですが、後半が省略されたフレーズが人口に膾炙したというのが本当のところなのです。
もちろんこれはウソだけど笑、ビタミンB1を摂ると子供の頭が良くなる、というのはウソのような本当の話。
ルース・ハレルという先生は、ダウン症児も含め、何らかの精神的症状を示す小児に、大量の栄養素(サプリメント)を投与した。それは成人の1日所要量の数倍以上の量で、具体的にはビタミンB1を150倍、ビタミンB2を100倍、ビタミンB3を37倍、ビタミンEを40倍だった。
その結果、子供の精神症状は消失し、ダウン症児も含め、子供らのIQが大幅にアップした。同時に、栄養摂取量とIQには比例関係があることも見出された。
ダウン症児はIQの増大に加えて、特有の顔貌も消失した。600人以上の子供にサプリメントを投与し、80〜90%で治療効果が見られた。
子供の頭をよくする方法っていうのは、少なくとも栄養療法的には、分かっているわけです。
それを我が子に実践するかどうかは、親次第だ。
でも実践しないからといって、親として不適切かというと、全然そんなことない。
「頭がいいとか悪いとか、そんなもん関係ないわい。うちの子は確かに頭はアホで勉強もできひんけどなぁ、人の心の痛みがわかる子で、こんなええ子はおらへんぞ」と我が子を誇れる親に生まれた子供は、絶対幸せだと思う。
学歴コンプレックスのある親の影響下で、好きでもない勉強に無理やり追いたてられて、というのが子供としては一番きついだろう。